*3 決裂の別れと思いがけない巡り会い

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*3 決裂の別れと思いがけない巡り会い

 先日ゲットしたイベント出演の話を詳しく説明するためと称してのミーティングを兼ねてファミレスにセラータのメンバーで集まったら、“俺はビッチな奴に世話されてまでバンドで食っていきたくない”と茶山が言って脱退したあとだった。 「そうは言ってもイベント出るの決まったじゃんか。どーすんだよ?」  折角俺が身体張って取ってきた出演なのに、とは言わなかったけれど、いまさら出演辞退する気には誰もならなかった。  とは言ってもフレーズを弾くギターパートがいないのでは話にならないし、俺も唄えないので、急きょ代役を捜すためにそれぞれの交友関係を洗い出し始める。 「いまから来れるって」  小一時間ほどして、淡路に心当たりがあるらしく、早速その相手に連絡を取り始める。  その間にオーダーしていたピザの二枚目を頬張っていると、淡路がようやく連絡を取り終えてスマホをテーブルに置いてひと息ついた。  メンバーも確保できてバンドとしての体裁も整いそうだからか、淡路はさっきまでよりもやわらかい表情をしている気がする。 「来れるって、ここに?」  俺が指先についたソースを舐めとりながら問うと、淡路は冷えてしまったピザを豪快に二枚まとめてつまんで頬張りながらうなずく。 「前やってたバンドのメンバーの専門学校の後輩でさ、いまそいつもバンド解散したかなんかでフリーらしくてさ、だったら来てくれる? って言ってみたら、二つ返事」 「どんなやつ?」 「東原光輝(ひがしばらこうき)つって、まだ十九で専門通ってるけど、校内でもかなりの腕らしい」 「マジで! 淡路の人脈スゲーな!」  張本が目をキラキラさせながら言うと、淡路は照れくさそうに小さく笑い、それからスマホをいじって音声データを出してきた。どうやら、そのこれから来るギタリストの音源らしい。音源と言っても、その解散したらしいバンドの曲なんだけれど、ギターの音はちゃんと聞こえた。  聞こえてきたギターの音色は、俺らが好きな八十年代のロックを彩るのに結構あっている気がしたし、何より華がある音色だ。  間奏のソロがまた聴き応えがあって、張本なんて思わず指先でテーブルを叩いてリズムを取り始めたほどだ。  演奏が終わり、それから音源データと一緒に送られてきたという、その東原というやつの写真も見せてもらった。  見た感じ背が高くて、Tシャツ姿だからかギターを弾く腕がやたらたくましく見える。日によく焼けていて、なかなかビジュアルが映える奴だと思う一方、どこか見覚えがある気がした。  前に売りで相手をしたやつの一人だろうか……それにしては若すぎるし、きっと俺よりも年下だろうから売りの客ではないだろう。  では、どこで会ったんだろうか? 記憶をたどりながら考え込んでもその正体はピンとこない。 「どう? 良くない?」 「いいねー! サポートだけじゃなくてメンバーになってもらおうよ」 「気が早いよ、張本。快人はどう?」  速攻で気に入って早速メンバーにするなんて言い出したせっかちな張本の満面の笑みを横目に、淡路が俺にも意見を求めてくる。俺のすることを訝しく思っているだろうにもかかわらず、淡路はちゃんと俺の話も聞いてくれるから確かにいい奴だなと思える。  俺がきっかけでバンドが変わろうとしているのだから、これから俺が発する言葉もまたセラータの今後に大きく関わってくるだろう。  責任は重いと思う。でも、悪いように作用するとは思っていない。  だから俺は、こう返した。 「いいよ、一緒にやってみよう」  そうして、俺らはこれから現れる新しいメンバー候補の彼を迎え入れることにした。
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