*プロローグ

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*プロローグ

「俺が、二十四時間ずっと快人さんを守ります。バンドの練習の時も、バイトの時も、家でだってずっと一緒にいて、守ります」  バンドのライブどころか、スタジオ練習の時まで姿を見せるようになった、気味の悪いファンと言う名のストーカー。それに悩まされていた二十五の俺を、新しく加入したばかりの、しかも十九の彼がそう言って本当に二十四時間付きっ切りで守ってくれるという。  俺なんかのためにそこまでしなくていいと言っても、彼はあの男が俺の家まで嗅ぎつけてこないとは限らないからと言って譲らない。  頑なで、不器用とも言えるほど一本気な彼の想いが、まっすぐに俺に向けられているのがわかる。理由は、やはり俺らの間にはあの夢が関係しているからだろうか。  俺にとって彼が絶対に安全である証拠なんてないかもしれない。でも、あの男より安全であることだけはわかっている。いまは、それだけでいいのかもしれない。なにより、思っている以上に自分の状況がヤバいことに気付かされたから。 「あいつが諦めるまで、俺のとこいてくれる?」  もしかしたら彼の目に映る俺は、泣き出しそうなガキみたいな顔をしていたかもしれない。情けなくて不安で心許なくて仕方なかったから、その姿なのは否定しないけれど、同時に、スプーンひと掬い程の安心感を、彼の姿や醸し出す雰囲気から覚え始めていた。  俺の言葉に彼は、光輝(こうき)は静かに、だけどやさしくホッとするような空気をまといながら微笑み、またこう答えた。 「もちろんです。命に代えてでも」  そんな簡単に命を懸けるなんて言うなと俺が言っても、光輝は意に介してないように笑い、「いいんです、そのために俺はいまいるんで」なんて言う。  その純粋な笑顔が不用意に俺の胸の奥に何かを刺激し、駆け抜けるようにあの夢の中で見たオルゴーと言う男の姿に重なる。  俺が、同じ夢の中のシデーリオという男である確証は俺にはないし、光輝がオルゴーである確証もない。  それなのに、なんでこんなに光輝から差し出される言葉に胸が苦しくなったり切なくなったり……嬉しいとも思ってしまうのか。いくら俺が色んな男と寝るようなビッチであると言っても、バンド仲間である彼にまで手を出すほどでバカはないはずなのに。  ――じゃあ、いま俺が感じているこの気持ちは何なんだ?  俺がシデーリオでないというのであれば、仲間だと思っている彼に対して感じるこの感情を何と呼べばいい?  光輝に問うわけにはいかない想いを抱えながら、俺は再び家路へと歩き出す。隣には俺を前世から守ると心に誓っていた男を連れて。
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