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2 【開眼の儀の真実】
やがて、中学生となり数ヶ月経った夏のある日、屋敷には久々の来客があった。総本家の新たな当主、新発田泰山だ。和装がよく馴染む落ち着いた面持ちで二十半ばくらい。後ろに束ねた髪を揺らす彼は、正装を着た父と共にちょうど母屋から出てきたところだった。
「ん……おや、キミは千隼君だね? 小さい頃に何回かは会って話したね。葬儀では、話こそできなかったけれど。この顔、覚えていてくれたかな?」
その整った微笑みに、千隼は会釈して言った。
「はい。記憶しております。
此度のお話は父より伺っておりました。多忙の中、ご足労大変痛み入ります。拝謁させていただきましたこと、光栄至極の所存です。しかしながら先代におかれましては、やはりお悔やみを……」
「なに、仕方のないことさ。我々はもとより短命だからね。いま、学校帰りかい?」
「はい」
「学校、大変でしょ。我々みたいなのは、どうしても子供らしさが出せなくて。
千隼君は、今年から中学生になったんだったね。学ラン、似合ってるね。学びの友はできたかな?」
「友は怪異を倒すための知識であるため、学友は二の次となってしまいますが、信頼できる友は少なからず」
それは嘘だった。誰一人ともろくな会話はしていない。だいたいの者からは、避けられていた。
「そうかい、それは何より。
君は本家でも期待の声が大きい。これから二年後の儀式が楽しみでならないよ。でも、無理はしないようなさい。
そうだ、手を出して」
「新発田殿、そんなお心遣いは不要で――」
「良いではないですか、余計なこととは百も承知。しかし、これもご縁です。
ご縁とは、戦も商売も共通して重宝されるもの。ご縁の導き出したものは巡って利となりますよ、長門氏」
父は後ろで「はぁ……」と煙たそうな顔を隠れてしていた。
そう、先代の新発田幽幻は豪胆でわかりやすい人物であったが、のらりくらりとした当代の泰山においては、どうにもやりにくいようであった。
それに、千隼には分かっていた。父は泰山を形としては当主と認めていても、心の底では認めちゃいないのだと。きっと気に食わないのだろう、経験の少ないものが上にいるというのが。
千隼は両手を差し出すと、泰山は懐からあるものを取り出し、そこへ乗せた。
「これは……」
ちょこんと座る三尾のキツネのモチーフ。組紐のストラップだった。
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