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それから今までの凍りついていた日々が嘘のように私たちに笑顔と会話が戻り、温かい結婚記念日を過ごすことができた。
私はスマートフォンの画面のことを忘れようと努力した。
けれど、また友樹の口数は少なくなり、ついに以前と同じように何も言わなくなってしまった。今度は私から声をかけ歩み寄ろうとしてみた。少し笑うようにはなったけれど、まだ疲れているようだった。
そのうち私は祈るようになっていた。
お土産を持って全力の笑顔で「ただいま」と言わないで――
友樹のことを愛してる。笑って話しがしたい。愛されたい。それなのに笑顔を恐れていた。
そんな私の思いをよそに友樹はある日、申し訳なさそうに笑って言った。
「ただいま。誕生日プレゼントあげてないの思い出して選んでたら遅くなっちゃった。ごめん」
私は「ありがとう」と微笑み、友樹を全力で信じるために、その日の夜中、寝ている彼の顔にスマートフォンを近づけロックを解除した。
遠くの方でプラスチックの音がした。
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