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怪しいところなんて何もないはずだと言い聞かせたけれど、私の予感は的中した。俺は朱里を愛してる。妻しかいない。悲しませたくない。だから本当にこれで最後だという文章の下にメッセージが届いている。
『前もそう言ってたけど、また会ってくれたじゃん。ウチの旦那より友樹クンの方が魅力的なんだもん。きっと友樹クンが運命の相手なんだと思う。また連絡するね』
語尾には必要以上にハートが添えられていた。プラスチックの音が、だんだん近づいている。きっと、多分、気のせいだけれど。私の指は勝手に動いた。
『ごめん。嘘。また会いたい。でも旦那さんにバレたらまずくない?』
深夜だというのに、すぐに既読がついた。
『えー?ほんと?嬉しい!友樹クンも会いたいって思ってくれてると思ってた!大丈夫だよ!二回ともバレなかったし!ウチの旦那干渉しないから』
『そうなんだ。じゃあ今度は別のホテルで会わない?チカさん、いいとこ知らない?あんまり人目につきたくないから』
『友樹クンから誘ってくれるなんて超嬉しいんだけど!じゃあ、ホテル××はどう?近くにコンビニもあるから待ち合わせもしやすいよ』
文章を真似ているからか、相手は気づいている様子はない。思ったとおり不倫には慣れているらしい。女の勘って怖い。
やたら冷静な自分に驚きながら私はチカという女と約束を取り付けた。自動で表示されていた彼女の誕生日の前日。時間は午後十一時三十分。俺を救ってくれたチカさんを祝いたい。ホテルの中で待ち合わせしようと書いたら秒速でねちっこいスタンプが返ってきた。
それを確認して、やり取りの送信を取り消した。友樹のスマートフォンは、しょっちゅう仕事用のメッセージを受信している。このままチカが下へ下へ追いやられるのを待てばいい。
もしも何か聞かれたら、その時考えればいい。
私の脳は高速で動いていた。プラスチックの音は、ずっと鳴り続いている。
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