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――秘密の共有者。
それは普通、不思議と高揚する響きを持っている気がする。
秘密をばらされたくない、私だけが秘密を知っている。
その事実はスパイスとなって、二人に新たな関係をもたらす……なんて、少女漫画の読みすぎだと思う。
こと志野零羽という人間においては、全くその限りではなかった。
一週間、私はもうずっと、それこそ背中に穴が開くんじゃないかというほどに彼を見つめ続けた。変わらず曲を聴きながら、彼のことを考えた。
一体どうして彼はこんなにも透き通った歌声を持っているのか。どうしてこんな風に歌えるのか。どして動画投稿を始めたのか。
不透明な歌声が何も語ってくれないからこそ、私はにわかに「志野零羽」というクラスメイトについて知りたくなった。
「少し、いい?」
業後。静かに席を立ち、だれよりも早く静かに帰っていく背中に慌てて声を投げかければ、ぴたりとその背中が止まる――ことはなく。
まるで清流のように、止まることを知らない彼の背中は廊下へと遠ざかっていった。
「シカトかぁ」
近くから聞こえる声を背負うように、私はあわてて後を追うようにして廊下に出て、けれどそこにはもう彼の背中はなかった。
わからない。志野零羽という人間が、私には全く分からなかった。
頭を振り絞っても、記憶の中には彼の姿が浮かび上がることはなかった。
まるで空気のように透明で、存在感がなくて、だから気にも止まらなかったのだろうか。
――あんなにすごい歌を歌えるのに?
透明な人。透明な歌声を響かせる人。それでいてネットに動画を投稿する、承認欲求を感じさせる人。
ちぐはぐなその在り方に、私は惹かれているのかもしれない。あるいは、秘密という魔法のような響きが、私を惑わせているのかもしれない。
なんだか恥ずかしくなって、逃げるように掃除場所に向かって歩き出す。
冬の空気が吹き抜ける廊下は、換気のために開けられた窓から入ってくる冷気に満ちていて、そのせいかぶるりと体が震えた。
それはあるいは、私の中にあった感動を呼び覚ました。
冬の夜空の下、朗々と響く歌声。誰もいない公園で一人静かに歌う彼の姿――
行ってみなければ、と思った。
志野零羽という人のことを知るために。私のために。
衝動のままこぶしをぐっと握れば、横を通りがかった人に変な目で見られてしまった。
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