モナリザの歌い手

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「嘘、嘘、嘘ッ」  何度否定しても、頭の中から言葉は消えてくれない。嘘じゃないのよ、と言い聞かせる咲夜の声が頭の中ではじけて、芋づる式に追いやろうとしている声がよみがえる。 『――志野くんは、亡くなったのよ』  木曜日の夜、持病が悪化して緊急搬送されて、病院で死亡が確認されたのだと。  金曜日にクラスの皆に知らされ、葬儀はもう執り行われたのだと。  彼はとっくに灰になり、別れの言葉さえ交わすことは叶わないのだと。  現実感のない言葉の羅列が、私を粉々に打ち砕こうと迫る。  あの日、私と一緒に雨に打たれたから、彼は死んでしまった?  私にコートなんて預けて、ずぶ濡れになったから。体を冷やしたから。  ――私のせいだ。  とめどない後悔のまま、担任に詰め寄って、果たして、嘘であって欲しいという私の祈りはズタズタに引き裂かれた。  彼はもう、いない。志野零羽という人間は、もうこの世界のどこにも存在しない――まだ、だ。  まだ確かめていない。私は受け入れていない。  家に帰って、かじりつくようにパソコンを開いた。震える指は簡単なタイピングを何度も間違えて、その度に焦りが募った。  焦ったところで、何かがあるというわけでもないのに。  一つ、また一つ。入力するたびに、現実へと近づいていく。それはまるで断頭台へと自らの足で上るようなもの。  予測できてしまう絶望を前に、けれど踏み出さずにはいられなかった。  果たして――わかりきったことなのだろうけれど、「音無」のチャンネルには新しい曲は投稿されていなかった。  膝から、いいや、全身から力が抜けた。  地面が突如として崩れたような衝撃とともに、私はすべてを拒絶するように、床を殴りつけた。  こぶしが痛むばかりで、そんなものは何の意味もない行為で。けれど、何一つ気づけず、何一つ成せず、ただ彼を死なせてしまった自分を責めることで、ほんの少しだけ心を落ち着けることができた。  動画は、もう聞く気にはなれなかった。  彼のチャンネル登録をやめ、画面を消し、動画サイトの履歴を消し、パソコンの履歴も、クッキーも、全てを消した。  まっさらなパソコンは、もう動画サイトを立ち上げても、チャンネル登録していた彼のページに案内されることは無い。おそらく、不意に目にしてしまうこともない。  ――そうして私はすべてを拒絶した。  殻で心を覆うようにして、己を守るしかなかった。
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