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今作は主人公の心情描写がメインなので、文章表現にはあまりこだわらず、ストレートな表現を心掛けました。モノローグばかりの文章は淡々としていてメリハリがなく、のっぺりとして好まないのですが、からりとした文章が恋の終わり特有の湿っぽさとマッチしてよかったかもしれないです。ネオン街の情景描写は特にお気に入りです。
『NEON FISH』の「この街は水槽で」という歌詞から街と水族館の水槽を掛け合わせられたらと思い、対比表現を多めに書いています。
水族館のシーンの「水槽のなかを知らん顔すれ違う」と一番最後のシーンの「街のなかを知らん顔ですれ違う」や、「極彩色の魚たちがあてもなく泳いでいる」と「行くあてもなくネオンを飾った街を徘徊する」を対比させて、街=水槽・街に生きる人=水槽の魚という対比(?)を描きました。これが一番最後のシーンの講評でも褒められた「街のなかを知らん顔ですれ違う俺たちは、もう水槽の魚だった」にかかってくるわけです。
『バニラの海になる』というタイトルは本文を書き終わった後につけたのですが、「魚」と「海」が偶然かかっていいなと思いました。
ちなみにこのタイトルは青のクリームソーダのグラスの中を表しています。青は一番熱い色だから青のソーダ水が熱かったらアイスが溶けてグラスがバニラの海になる、というセリフからこのタイトルが生まれました(まんまですけど)。主人公にとって青のクリームソーダは未明との恋の象徴であり、宗教でした。しかし、別れたことで恋=青のソーダ水が燃え尽き、アイスが溶けてグラスのなかがバニラの海になる。ということを示しています。これが一番最後の「青のクリームソーダから棄教した」=未明との恋の終わりに繋がってくるのです。
心情を書くとき『ばかじゃないのに』はすごく参考になりました(是非、曲を聴いて歌詞を見てほしいです)。この曲は倦怠期の恋人を歌っているのですが、状況や二人の距離感がすごくリアルで歌詞から言葉や台詞をいくつか借りパクさせていただきました。
生活のなかでふと相手のことを思い出したり、楽しかった温かい思い出を引き摺ったり、大したきっかけもないのに終わりが近くなって、お互いにそれをわかっている様子やその先どうするかわからない関係に辟易してそれに安心したりと、感情参考書になりました。
「色の濃い野菜ばっかり湯掻いてた 鮮やかな仕草に」という歌詞があり、無彩色になっていく生活との対比で、炒飯の「赤」やひまわりの「黄」や極彩色のネオンや水槽の魚たちなど、「色」というものを象徴的に描きたい、そのなかでも「青」を一番強烈に演出したいと思っていました。そしたら案の定、統一感をだせと講評をいただきました。難しい…。
恋の倦怠期というのがどういう現象で起こるかわからず、ネットで調べたら「倦怠期は恋から愛の変わり目。恋特有のときめきが終わって、愛に変化するタイミング(要約)」と書かれていて、たしかに『花束みたいな恋をした』も似たような感じだったなと思いました。
スマホに唐突に思いついた文章を書き留めておくよう用のメモ帳があり、そこに「愛せないことは愛されないことより苦しい」と書かれていて「これだ!」と思いました。「愛せないことは苦しくて、幸せだった」という一文に二人の恋が集約されているような気がします。
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