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情報量と詳細性
文章とは要するに、言葉(単語)の羅列だと思います。どんな言葉をあてはめるかで文章の雰囲気や文体はがらっと変わります。
例文をだします。夕暮れの海を描写してみます。まずはシンプルに書いてみます。
海の向こうで太陽が沈んでいく。
ザ・シンプル。海という「場所」、太陽が沈む「時間」、「状況」がこの一文からわかります。
では、言葉を変えて書いてみます。
夕凪の向こうで残照が赤らむ。
わお。全然違う。でも同じ描写です。
まず、夕凪とは夕方の静かな(無風状態の)海のことです。「夕凪」という単語ひとつに「夕方」と「海」という情報が入っています。また、夏の季語でもあるので季節感も表せます。「残照」で沈んでいく夕陽の様子を表し、「赤らむ」と色の情報を入れることで情景に詳細性がでます。
小説を読むとき、並べられた言葉から情景や心情を想像しますよね。言葉を選ぶ時に大事にしているのは言葉が持つ「情報量」と「詳細性」です。
夕凪という言葉には海がどのような状態であるかも含まれています。夕凪という言葉には時間、場所、状態という三つの情報が含まれています。なので、
夕陽に照らされた海が凪いでいる。
なんてわざわざ書かなくても「夕凪」という単語一つで表すことができます。もちろん、一つの単語を文章化する表現も好きです。
夕暮れや夕陽を表す言葉は結構あります。薄明、薄暮、黄昏時、残照、斜陽、落陽、エトセトラ。夕暮れや夕陽もいいですが、ありきたりな表現は「詳細性」に欠けるのであまり使わないようにしています。
例えば、夕暮れの空の色と言われると何色を思い浮かべますか?
一般的なイメージはオレンジかもしれませんが、黄色、赤、紫をイメージする人もいるかもしれませんし、一面オレンジなのか、他の色とグラーデーションになっているとか。
では、薄明時の空の色と言われたら、何色を思い浮かべますか?
私は青を思い浮かべます。マジックアワーという日の出前と日の入り後に発生する空が濃い青色に染まる時間帯を指す言葉があります。それを和名で薄明というので、私は薄明=青だと思っています。
また、黄昏時というのは、夕焼けで薄暗いなか景色が黄金色に輝く時間帯を表す言葉で、「黄金色」という情報が含まれています。
このように、言葉に含まれる情報(量)と詳細性から言葉を選び、文章を作っています。そしてこの作業にはどうしても「語彙力」が必要になります。私は歳時記や古語辞典、類語辞典をよく参考にしています。
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