ショートショート

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彼は最近メッセージでも通話でも『忙しくて』と言う。 理由は教えてくれないのだけれど、私は気にしなかった。 彼との通話、最初の頃は、なんでもない会話からお互いに『好き』とか『愛してる』を言い合う幸せな展開になっていくのだけど、最近はなんでもない会話で終わってしまうことが大半だ。 今日もなんでもない会話をして終わる。本当は幸せな展開に広げたいけど、欲張れない私は、通話の最後にお互い言い合う、『おやすみ』で我慢する。 ──おやすみおやすみ、甘い飴を口の中で転がすみたいに反復する。 でもいくら転がしても『愛してる』よりも甘くない。寂しさという苦味すら感じる。 それからも、頻度が減っていくメッセージと通話。なんでもない会話を重ねていく。 ある時、私は欲張った。 「ねえ、愛してるって言ってよ」 「愛してるよ、ごめん明日忙しくておやすみ」 おやすみっと言って通話が切れる。『愛してる』も今まで言い合った『おやすみ』も今回は甘くなかった。苦味だけが口に残る。 私はぬいぐるみを両手で抱きしめて、寂しさと胸の苦しさをぎゅっと押し込む。 ──チクタクチクタクとその日から、部屋には時計の音しかしなくなった。メッセージも通話も来ない。 鳴ったと思ったら関係ない通知。 そんな日がずっと続いた、ある日のこと──。 メッセージの通知が鳴った。 「ごめん、もう不登校じゃないんだ。これ以上君とは繋がれない──本当にごめん、さよなら」 私はスマホを床に落とした。その一瞬で、彼とのなんでもない会話も幸せな愛言葉も全部なくなった。 ──時計の音が鳴らない、きっと壊れてしまったんだろう。 私も心の中で呟く、さようなら──。
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