【虚構恋愛】~彼女の愛の行方~とある夫婦の六日間~

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【虚構恋愛】~彼女の愛の行方~とある夫婦の六日間~

 「……今から話す事は、私たち二人の秘密よ。実はね、私とあなたは『ソウルメイト』なの。それでね、彼は私の『ツインレイ』よ」  と、その彼女は夢見るように声を弾ませた。零れ落ちそうなほど大きな瞳が、キラキラと輝いている。その瞳を例えるなら星月夜を思わせ、桜の花びらのような唇からは文字通り鈴を転がすような音色が紡ぎ出される。悔しいけれど思わず、同性でも見惚れてしまう程に美しかった。  真彩(まあや)は驚愕のあまり二の句が継げなかった。彼女が美人女子大生の『ヒーラー』として、スピリチュアル業界で名を馳せているという事は小耳に挟んでいた。だが、言葉としては理解出来るものの、何を言っているのかその意味が全く理解出来なかったのだ。何故なら……  ◇◆◇◆◇◆◇◆  彼女は窓辺のソファに腰をおろしていた。窓越しに空を見上げている様子で、真彩からは彼女の後ろ姿しか見えない。かつては、滝のように流れる漆黒の絹のようだった長い髪が、今は消し炭色へと移り変わりパサついて好き勝手に渦を巻いている。少し……いや、かなり痩せたのだろう。白いレース仕立てのネグリジェが、身にまとっている本人の2サイズも大きいものに見える。以前、このネグリジェを着て『お友達とパジャマパーティー』というタイトルでブログを上げていたのを見た事があった。  貸し切りにして貰った為、その談話室には彼女しか居ない。室内に足を踏み入れる際、「失礼します」と声はかけたものの全くの無反応だった。自分の世界に没頭して聞こえなかったのか、それとも聞こえていて敢えて無視を決め込んでいるのかが判断がつかない。真彩はほんの少し逡巡した後、一歩を大きく踏み出した。嫌な事は早めに終わらせてしまいたかったのだ。  もしかして床を舐めようとしているのでは? と、思わずギョッとするほど深々と頭を下げ続けている男の存在を背後に感じながら、真彩は静かに大きく息を吸い込み「静流(しずる)さん」と彼女の名を呼んだ。刹那、  『彼とはなの。魂の伴侶、結ばれるべき宿の相手よ』 という過去の彼女の声が脳内を過る。同時に、恍惚とした表情で彼に両腕を伸ばす彼女。更に、  『何言ってるの? あなたちょっとオカシイんじゃない? あなたには……』 精一杯の抵抗を試みる真彩に向け、  『煩い! 真実の愛を邪魔するこの悪女めっ!!!』 と唐突に叫びバッグから包丁を取り出す彼女。周囲より湧き上がる悲鳴、そして飛び交う怒号……それら過去の悍ましい出来事が、怒涛のように真彩の脳裏を駆け巡つた。  「……さん、朱鷺堂(ときとう)さん?」 気遣わし気にかけられる背後からの声に我に返る。彼女は相変わらずぼんやりと空を眺めていた。物憂げなその双眸に映し出されるのは、果たして本当に窓越しのあの空なのだろうか? 先程まで蒼天と呼べるべき秋の空は、どんよりと曇って雨が降りそうだ。  自分で決めたのだ。会うのは辞めた方が良いという周囲の声を押し切って、自分の中でけじめをつけてきっぱりと断ち切る為に対峙したい! と彼らを説得したのではないか。怖気づいてなるものか! 真彩は背筋を伸ばし、真っ直ぐに彼女を見据え歩を進めた。  それに呼応するかのように、彼女はゆっくりと振り返った。まるで肩越しに真彩を見るような感じで。ドキリと心臓が動揺を示した。あくまで心臓が、だ。決して恐怖に支配された訳ではない。と、真彩はクルリと回れ右をして逃げ出したい衝動を抑えつけ、己を鼓舞するようにして両眼に力を込めた。真彩だって、丸くて大きな目が印象的だ、とか。睫毛長いし目も大きいし。目がチャームポイントだね、と幼い頃から言われて来たのだ! 彼女のとやらには負けるものか!!  等と、冷静になって後から思い返してみると意味不明の闘争心に赤面し苦笑する真彩なのだが。余談なので先を続けよう。  機械仕掛けの人形のようにぎこちなく振り返った彼女の瞳は、確かに真彩を捉えていた。けれどもその双眸は虚ろだった。あれほど生き生きと輝いていたのに、今は消し炭色のプラスチック玉のようだ。大半の人が褒め称えるであろう雪のように白かった肌は、黄色味がかってくすみ不健康そうにカサついている。ジェルで長さを出し流行を追いかけたアートを施していた爪は、今は短く切られて自爪のままになっていた。頬は落ちくぼみ、ネグリジェから見える鎖骨や手首の骨が痛々しい。    かつては花のように美しかった面影は、今はもうない。 (なんだか幽鬼みたい……)  彼女を前にして正直な感想を持ちつつ、真彩はゴクリと生唾を吞み込んだ。  ……彼女はまた、攻撃的になるだろうか? それともお得意の空涙で巧みに周囲の同情を誘い、真彩を自動的に悪者にしてしまう印象操作を駆使するだろうか?  (大丈夫、何かあればすぐにスタッフが駆けつけてくれる手筈を整えているし。何よりも後ろでが待機している)   真彩は自分に言い聞かせ、彼女の出方に備えた。  「あのね、私には宿の彼が居るの。ツインレイって言ってね、唯一無二の存在よ。前世で一つだった魂が、今世で与えられた特別な使命とそれに伴う試練を乗り越えて結ばれる為に二つに分かれて生まれて来たの」 しかし、予想に反して彼女は唐突に語り始めた。真彩に向かってと言うよりは、イマジナリーフレンドに物語を読み聞かせるような感じだった。故に、しばらく彼女の話を只管聞き続けてみようと思った。  思いの外、声に張りがある。かつては鈴を転がすような声色だったが、今は意外に低めで落ち着いた声色だった。  「出会ってすぐに強烈に惹かれ合うけれど、魂の成長の為に生まれてきた訳だから結ばれる前に色々な障害が立ちはだかるの。例えば相手にパートナーがいたりね」  真彩の心臓がドキリと跳ねた。 (やっぱり、彼女のなのかしら?)  相手の狙いが分からず、そのまま話を聞き続ける。 「結ばれる前に一時的に離れる事で魂の成長を促す事を『サイレント期間』と言うのだけど……」  彼女はそこで一旦話を終えると、寂しそうに目尻を下げ微かに口角を上げた。エクステンションを施したかのような睫毛の長さをと密度の濃さだけは健在で、瞬きをする度に頬に影を落とす様は幽霊を彷彿とさせる。  「彼と結ばれるのは来世に持ち越しになりそうだわ」 溜息混じりに彼女は言葉を続けた。  「彼には既にパートナーが居て。本来ならツインレイである私と彼の為に身を引くべきなのに、真実の愛を邪魔する悪女のせいで。でも彼は責任感が強いから離婚をしなかったの」  彼女の言葉に、真彩はゾクリと背筋が粟立つのを覚えた。 「彼、本当に可哀そうだわ。私と結ばれたかっただろうに……」  懲りずに自分の世界に入り込み、しみじみと言う彼女にゾッと全身が総毛立つのを覚えた。  何故なら、彼女がしきりに口にする『ツインレイ』の彼とは、真彩の夫の事だったからだ。  (もう、彼女に会う事もないだろうな) 「彼と私はツインレイ、彼と私はツインレイ……」  とその後の彼女は壊れたラジオのようにそう繰り返していた。一連の彼女の様子を見て、もう煩わさせる事もないだろうと判断。漸く安堵の溜息をついたのだった。  施設が統合された精神科病院を後にして真彩を待っていたのは、最愛の夫陸翔(りくと)だった。 「お帰り、お疲れ様。よく頑張ったな」  真彩は、両腕を広げて迎える夫の腕の中に迷わず飛び込んで行った。 「よしよし、よく頑張った」 左手で真彩を抱き、右手では最愛の妻の頭を優しく撫でる陸翔。此度、最大の被害者である筈の彼は、こうして妻を一番に気遣ってくれる。彼の愛情をひしひしと全身に感じながら、真彩は三か月ほど前に夫婦の身に起こった突拍子もない出来事を振り返った。  彼女は浮世離れした大層美しい人だった。分かり易く例えるなら、AIが描いた雪白の肌に漆黒の髪と瞳を持つ儚げな美女……を想像して頂けたらと思う。都内の私立文系大学に通う二年生で、『レムリアの女神』という異名を持つらしい。つまり、あちこちで噂になるほど美しかったという訳だ。  真彩はそれほど詳しくはなかったけれど、スピリチュアル業界とやらでは知らない人はいないと言われるほど有名な人らしい。美人女子大生ヒーラーとしてその業界の雑誌に何度も特集を組まれているのだとか。少し興味が湧いて、彼女が書いているという公式ブログを読んだりした事もある。スピリチュアル仲間とのセミナーの様子やらランチ会やら、ヒーリングワークやらと、如何にもキラキラ女子大生、という風情だったのは記憶に新しい。真彩はさほど興味が惹かれず、軽く流しただけで終わった。  真彩は元々、老若男女問わず、更に言えば人間に限らず動物でも物でも綺麗なものや可愛いものが大好きだった。大学は四年前に卒業し、某化粧品メーカーのラウンダーとして働いていた。それなりに充実した日々を送っていたある日、たまたま数合わせで参加させられた合コンで陸翔……今の夫と知り合ったのだ。  長身で細身のモデル体型の彼は、今風のK-POPアイドルを連想させるツーブロックヘアーの鳶色の艶髪と、髪と同色の涼やかな目元を持つ野性味を帯びた美丈夫で、真彩は一目で気に入ってしまった。それは恋愛感情というよりはを愛でる感覚に近く、彼からの愛情は何の期待もしていなかった。まさか、彼の方が一目惚れだったと知った日には「青天の霹靂」とはこういう事を言うのだと肌で感じたのだった。そのまま順調に愛を育み、一年後に結婚した。  真彩のオタク気質が極まって、当時夢中になっていたロマンスファンタジーの小説の影響で、古典文学をもう一度きちんと学んでみたい……という欲求を叶えるべく、陸翔の勧めで私立文系大学に再度入学したのだ。本当に有難い限りだ。  だから、その彼女の事は噂に聞いて実際に目にする機会に恵まれると、 「うわぁ、本当に浮世離れした儚げな美人さんだ!」 と感激した。ただそれだけだった……のだが。真彩と目が合うなり、彼女は  「……あら、初めましてね。私は鷺宮静流(さぎみやしずる)。こうして出会ったからには、私とあなたは『ソウルメイト』なのよ。ソウルメイトって言うのはね、魂の学びと成長の為に出会う仲間の事なの」  と、にこやかに話しかけてくるものだから、反応に困ってしまった。砕けた口調なのは、恐らく真彩が童顔な為、年上だとは感じていないからだと思われる。きっとそうだ、そうに違いない。ちょっと、いやかなり変わっている……否、超がつくほど個性的な人なのかもしれない。彼女には付き合っている彼が居た。サラサラした栗色の髪と優しい瞳を持つ中性的な美形の彼は麻生和真(あそうかずま)と言い、彼女の幼馴染らしい。  当然のように、彼女の周りには男女の取り巻きが多く存在した。一種の群れになっていて別世界の雰囲気を醸し出していた。彼女の言うところの『ソウルメイト』らしい。  一部の噂では、スピリチュアルという如何にも善人のふりをしつつ……魂の伴侶だかのツインレイを盾にして人様のパートナーを奪い取るという、実際は非常に悪辣な集団だ、という話もあった。  実際のところは不明だ。けれども、桁外れの美しさを持つ彼女に、付き合っている女性がいるにも関わらず惹かれてしまう男性は少なくないだろうとは想像に難くない。自分に惹かれる男性をどう扱っているのかは真彩には確認出来ないし、しようとも思わなかった。人のモノに興味は無い、こと、恋愛絡みなら尚更。それは陸翔も同じで。その辺りの価値観が似ているところも、馬が合う理由の一つだった。    その日は夫の会社全体がお休みの日だった。だから妻を迎えに大学まで迎えに来たのだ。そのまま二人で外食をして帰る予定だった。大学の正門で待っていた夫と手を繋いで歩き出したその時、  「見つけた! あなたが私のツインレイだわ!」 と軽やかな声と同時に、陸翔と真彩の間を割って入る存在があった。漆黒の艶やかな髪が真彩の手首を掠めた……と思ったその時、ドンと右肩に衝撃が走り気づいたら地べたにすっ転んでいた。真彩は衝撃の正体を確認しようと陸翔を見上げると、驚きのあまりポカン、と口を開けた。  そこに繰り広げられる光景は、到底信じがたいものだった。困惑と怒りに打ち震える夫と、夢見るような眼差しで彼の右腕に両腕を巻きつけている鷺宮静流、その人の姿があった。  「こら、静流! お二方とも……どうもすみません、失礼しました!」 慌てて駆けつけ、陸翔から引きはがそうと彼女の両肩を抱くように引っ張る和真。  「いい加減にしてくれ!」 不快そうに静流に一瞥をくれた陸翔は、彼女から腕を引き抜き真彩に駆け寄ると、抱え上げるようにして抱き起した。  「大丈夫か?」 真彩は辛うじて頷いた。どこも痛くない。怪我はしていないようだ。仮にしていたとしても軽い打撲程度だろう。  「和真、邪魔しないで! 彼は私のツインレイなんだから!! やっと会えたのよ。前世、ううん、前世前前世から約束してたんだから」 「何言ってるんだ、いきなり失礼じゃないか!」  静流とその彼が揉めている。痴話喧嘩さんてにしてはおかしな内容だ。真彩は段々と腹が立って来た。周りに人垣が出来つつある。恥ずかしいけれど、ここで引く訳にはいかない。陸翔を奪われてなるものか! どうやら真彩の闘争心に火が付いたようだ。 「ツインレイって……彼は私の夫ですよ? 静流さんには和真さんという彼がいますよね?」 「ええ、でもそれがどうかした?」 「はい?」 夫に抱きしめられながら、という安全な砦を得て気が大きくなったのか、即反撃に打って出た真彩であったが、予想外の彼女の切り返しに再度ポカンと口を開けた。そんな真彩にはお構い無しに、静流は俄かに恍惚とした笑みを見せる。   「……今から話す事は、私たち二人の秘密よ。実はね、私とあなたは『ソウルメイト』なの。それでね、彼は私の『ツインレイ』よ」  と、声を弾ませた。悔しい事に、見惚れるくらい綺麗だった。 「秘密って、この間その話は聞きました。それに、これだけ人が集まって来ている中秘密でもなんでもないですよね? 人の旦那をツインレイって……和真さんがツインレイではないんですか?」  「和真はツインじゃなくてツインよ」 「「はぁ???」」  声を揃えた真彩と陸翔の皮肉など意に介さず、彼女はよくぞ聞いてくれた、とばかりに熱く語り出す。立石に水の如く。  「ツインソウルも、魂の成長とや進化を促す存在ではあるけれど。お互いに一目で惹かれ合うのよ。ツインレイが魂の伴侶で唯一無二の存在に対して、ツインソウルは複数存在するし必ずしも恋愛に発展するとは限らないわ。むしろ同志とか親友とかそういう意味合いの方が強いの」  色々と突っ込みたいところが満載で真彩はどう攻めるか迷った。その時、陸翔は聞えよがしに大きく溜息をつくと  「そのツインレイとやらが本当だとしたら、俺とあんたは一目で惹かれ合うんだよな? 俺は嫌悪感しか沸かないんだが。あんたの思い込みじゃないのか? 何より、俺の妻を突き飛ばしたのは許し難い。これ以上関わるなら警察を呼ぶぞ、いい加減にしろ!」  と憮然として一括した。とんでもない美女に言い寄られて靡いてしまわないかほんの少し不安だった真彩だが、その艶のある声に耳元を刺激され、惚れ惚れしてしまう。だが、静流の憎悪に満ちた視線に冷水を浴びたように寒気を覚えた。  その日は、深々と頭を下げる和真と野次馬の視線、彼女の取り巻きたちの不満気な囁き声を背にその場を後にした。  次の日から、静流の取り巻きから 「真実の愛を邪魔する悪女!」だ事の、「静流さんのツインレイを返せ!! 泥棒女」だとか面と向かって罵られるようになった。更に、ごく近しいと思われる取り巻きと静流に待ち伏せされ、彼女に抱き着かれるという災難に見舞われる陸翔。警察を呼ぶ騒ぎとなった。どこで嗅ぎ付けたのか、真彩のソイッターやナイスブックに「悪女」「泥棒女」と無数に書き込まれ、退会を余儀なくされた。  それでも大学は通い続けた。悪いのはあちらだ、どうしても負けたく無かった。夫は職場で事情を話し、有給休暇を取得して車で送り迎えをしてくれた。  そんな日々を夫婦でやり過ごした怒涛の六日目……。陸翔にけんもほろろに冷たくあしらわれてもめげない彼女にほとほと辟易していた。夫婦で手を繋いで歩き、大学の正門が見えたその時、  「泥棒猫っ、私のツインレイを返せっ! この悪女!!」 というドスの効いた女の罵声と共に、漆黒の塊が真彩の目前に出現した。長い髪を亡霊のように振り乱して向かって来た彼女だ。ギラリと銀色のメタリックな輝きが目に飛び込む。    包丁だ!! 咄嗟に身を翻し、夫を庇おうとした真彩より早く、陸翔の左腕に抱き込まれ、  「よせっ!」  という叫び声と共に右足を蹴り上げて彼女の手首を狙う陸翔。 「静流、馬鹿な真似はやめろっ!」  と彼女の腰にタックルをかます和真。「きゃー!」という悲鳴があちこちで響き、「ダメだ」「止めろ!」という怒号が飛び交う。天と地がグルグルと周り始めたように感じ、真彩は意識を手放した。  幸いな事に、真彩を亡き者にしようとした静流自身のみが、陸翔に手首を蹴り上げられ、和真にタックルを食らって転んだ事で右手首の捻挫と膝の擦り傷、という結果に終わった。包丁はというと、ちょうど陸翔が蹴り上げた際にその場を通りかかった会社員の男性に取り上げられ、惨劇は免れた。真彩は元来健康なので、数時間後に意識を取り戻し、事の顛末を知った。  静流は心神耗弱状態とやらで、精神科病院を受診。ご両親の意向もあって、そのまま無期限で入院する事となった。彼女のご両親から、お詫びとしてちゅうこまんが購入出来るほどのお金を頂いた。真彩は断るつもりだったが、陸翔の「これで互いに縁すっぱりと縁を切ろう」という意見を受け、有難く受け取る事にした。住んでいたマンションを引っ越し、小さな一戸建てに快適に暮らしている。  今でも時々思う。静流は何が不満だったのだろう? 病院に見舞いに来るのは和真だけのようだ。もしかしたら、両親の愛情に恵まれなかったのかもしれない。和真の話によると、略奪愛を好むという噂は本当のようだ。耳障りの良いスピリチュアルの世界にのめり込んでいったのは、もしかしたら寂しかったからなのかもしれない。けれども幼馴染の和真は、ずっと静流一筋だったそうだ。彼女の言うツインレイとやらの定義に当てはまるのは和真ではないだろうか。ふと、「青い鳥」という童話を思い出した。  真彩は思う。  確かに、二度と経験したくない六日間だった。皮肉な事に、彼女のお陰で陸翔に惚れ直した。当たり前の日常が当たり前ではない事、如何に自分が恵まれているのか再確認した。だから、何気ない日々を大切に生きよう、と決意を新たにしたのだ。  「陸翔、今夜は何が食べたい?」 真彩は最愛の夫に飛び切りの笑顔を向けた。       。
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