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「はぁ~~~……」
俺は朝、家を出るなり盛大なため息を吐いた。
最低だ。つーか最悪?
ともかくその辺の、とりあえずドン底。
まぁ半分くらいは昨日突然帰ってきた兄貴の酒盛りに付き合わされた結果の二日酔いなせいだけど。
後の4分の1くらいがその場であらぬ失態をさらしてしまったせいで、残りは月曜日の朝というユーウツ。
そんな感じのミラクルコンボで、俺の気分はドン底なのです、と。
「……っはよ」
「オースって、なんか今日はいつもに増して不機嫌じゃね?」
「んな事ねーよ」
学校の教室に入るなり、すでに来ていた友人Aがいきなり図星をつくので、とりあえず睨んで否定しておいた。
んで、それ以上話しかけられんのもウゼェから席につっぷして睡眠モードに入ろうとしたのだけれど。
目を閉じると、昨日あった出来事を鮮明に思い出してしまう。
……最低最悪だ。
『咲月、ただいまっ』
満面の笑みと共に帰ってきやがったアホ兄貴。
とっくに二十歳超えてんのに、「職業@旅人v」とかマジでやってる頭ン中に花が咲いてるとしか思えないようなアホな奴。
ついでに言うならそれは奴が高校を卒業した時からなので、もうかれこれ6年くらいになる。
1年に1回も帰って来ないと思ったら、月に2、3回帰ってきたりと本当に自由な兄貴。
『久しぶりだねー』
笑うと未だに十代にしか見えない童顔で、金に近い明るい色の髪。
放浪してる割にヒゲとかも生えてないキレイな肌。
そこいらの女より柔らかな桜色の唇。ちらりとのぞく赤い舌。
そしてその奥からつむぎだされる甘い吐息。
「……っ!!」
「おぉっ!?」
思考がヤバい方向へ飛びそうだったので、打ち消すように目を開く。
俺を覗き込んでいた友人Aが派手に驚いていたが今は無視だ。
昨日のカンショクを思い出し頬が熱くなるのを、必死に抑える。
なのに俺の頭は勝手にフラッシュバックを始めてしまう。
薄紅に染まる肌。潤んだ瞳。
上手く呼吸が出来なくて、舌ったらずな甘えたような声で呼ばれた名前。
マズい。はっきり言ってヤバい。
健全な高校生男子としてとてもマズい勢いだ。
「……帰る」
「はぁっ……ちょ……お前!?」
慌てる友人Aをそのままに、持ってきた薄いカバンをそのまま持って早々に教室を後にする。
幸い、今日はかなりはやく家を出たので始業までまだまだ余裕があり、帰る途中で教師の奴らと鉢合せすることもなかった。
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