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本棚に追加「おかえりなさい、お客様!」
昔の名残りで、ついその言葉が出てしまった。はっとして口を押さえる。
仕事帰りだろうか、スーツ姿の三十代くらいの男女は目をまるくした。変なことを言ってしまった。
「あら…まるで『おうち』みたいね」
「はい、あの、どなたでもいらっしゃれる、居心地のよい場所を作りたくて店を作りました」
「どうして真昼の月、っていうんですか?」
「パートナーと俺の名前が入ってて…それから、昼間に空にのぼるお月さまはちいさくて白っぽくて目立たないけど、働いたり眠ったり…泣いたりしてるのを見守ってくれるんです。そんなふうにさりげなく、いろんな人のそばにあるお店になったらいいなあって」
まひるが添い寝したり葉月を思って泣いたり、子どもの頃を思い出してふるえたりしているときも、月は空にあった。東京の、いつもすこしくすんだ水色の空に。
漢字では硬いし詩的すぎると思い、また、子どもが読めるようにと葉月と相談してたひらがなに決めた。
「…すてき」
「きれいな名前ですね」
ネクタイを締めた男性もうなづいてくれた。ありがとうございます、と言ってぴょこりと頭を下げた。はじめて客に店名の由来を訊かれた。そしてまひるは、緊張してたどたどしくも思いを言葉にして説明できた。客は理解してくれた。
お冷を置いたあと厨房の葉月を振り向くと、葉月はまひるを見ていた。そしてうなづいた。
こうして、ほかのどの店とも違う「まひるのつき」が細い糸をすこしずつ織るようにして作られていくのだと実感する。

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