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「半分?」 「なんと。本当に殿が申したことなのか?」 「あぁ随行人数を最少にするとな。老職方が殿をお止めになったらしいが」 「それは……そうであろうな」 「江戸の人間は噂好き。どこぞの藩と比べられて、我が藩が貧相などと言われてみぃ。面目は丸潰れぞ」  城内は江戸への参勤について話題は持ち切りだった。  出立までの間皆の関心事は、随行者には誰が選ばれるのか、江戸まで何を運ぶのか、など話題が尽きることはなく、皆が浮足立っていた。 ◇ ◇ ◇  城外。足軽屋敷。  一人の男が沈んだ面持ちで一軒の家に入っていく。  玄関で草鞋を脱ぐと、そのまま奥の部屋へ進み、声を掛けた。 「雪乃(ゆきの)、具合はどうだ?」  障子を開けて入ってきたのは、雪乃の夫である高松 虎見(たかまつ とらみ)であった。  コホコホと咳をしながら雪乃が布団から起き上がろうとするのを虎見が止めた。 「よいよい、そのままで。無理はするな」 「虎見様、申し訳、ございませぬ」  息も絶え絶え、と言う具合に雪乃が虎見に謝って、また布団に横になる。  横になった雪乃の手を優しく取った。 「何も心配するな。儂がついておる。そなたはきっと良くなる」  雪乃は涙ぐんだ。 「何を泣くことがある。気弱にならず、心持ちをしっかりいたせ」  雪乃の手を握り、励ましながら虎見は思った。  ━━雪乃は、三月(みつき)保たぬ。自分が江戸に行っている間に身罷(みまか)るやも知れぬ。参勤の随行をせずに雪乃の側に居られる手段()はないものか。  考えあぐねている虎見の手をそっと握り返し、雪乃が言った。 「もうすぐ江戸への参勤の時期ですね。準備もままならず申し訳ございません。どうぞ、お健やかに御役目を果たせますように」  ハッとして虎見が雪乃の顔を見ると、雪乃は淡く微笑んだ。 「虎見様、殿へのお仕えが第一にございます」  やつれてはいるが、毅然とした雪乃は美しい、と虎見は誇らしく思った。  自分には勿体ないくらい、よく出来た妻だ。  雪乃の言葉に虎見は頷いた。  自分を引き立ててくれた殿への忠誠心と、雪乃への想い。  どちらも大層重く大きかったが、勤めを果たすことこそ武士の本分。  虎見は居住まいを正した。  参勤による江戸への引っ越しは、城内、城外を問わず、人々を一喜一憂させていた。  
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