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2.日本史・世界史
一時限目はふつうの教室より広い視聴覚室に2つのクラス合同で行われることになった。日本史の馬橋先生と世界史の幸谷先生が手を叩きながら出て来た。
「こんにちはー!」
「うるせえよ!」
仕込みもないのに頭を叩いたくらいのギャグで笑うやつはいない。しかし、ふだんから生徒からの冷たい扱いに耐性のある馬橋先生は、
「いやー、うちのおかんがね、好きな教科があるっちゅうねん」と引用元をすかさず変えて声を張り上げる。
「おかんはJKか?」と七原は典子にささやく。ところが典子はけっこう楽しそうに聞き入っている。
「せやけど、その教科の名前を忘れてしもうたんやて」
「そうなんや。なら思い出すの手伝ってあげるわ。なんか特徴あげてみて」と幸谷先生が応じる。
「なんやいろんな国の古いことを勉強するんやて」
「そりゃ世界史やないか」
「うん、ぼくもそう思ったんやけど、その教科をちゃんと勉強すると将来どんな職業に就いても役に立つんやて」
「そら、世界史とは違うかぁ。世界史はマウント取る以外には役に立たんから」
「いいのか?」とまた典子にささやくと、
「エッジの効いた嘘じゃない。歴史好きになりそう」と言う。なるほど。
「君のおかんは他になんか言うてなかった?」と幸谷先生が訊いた。
「覚えることが多すぎて、日本史と両方取ったら頭がいっぱいになって壊れるんやて」
ふだんは『歴史の流れを理解すれば暗記することはあまりない』なんて言ってるくせに。
「それやったら世界史やないか。世界史で決まりやで。世界史はラーメンで、日本史はチャーハンなんや。両方食べるんはようないで。特に夜の9時過ぎはあかんで」
「ちょっと何言ってるのかわかんない」とつぶやきが聞こえる。
「ぼくも世界史やって思たんやけど、墾田永年私財法を漢字で書けんとあかんのやて」
「そりゃ世界史とは違うかぁ。墾田永年私財法は日本史のスタンドやから」
違うだろと思ったが、世界史のスタンドは何かなと考えてしまう七原だった。
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