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大嫌い。嫌な言葉だ。特に好きな人からは絶対に聞きたくない言葉だった。
「……えっと、待って。これってもしかして告白、じゃないの? え、ちょっと待って。休みの日にわざわざ呼び出して? 嫌いって言うために? どういうこと?」
「あ、ご、ごめん」
心底申し訳なさそうな顔をする佐藤。いや、そんな顔をしてほしいわけじゃない。
「いや、ごめんじゃないよ。告白されるかと思ったのに嫌いって言われて、えっ、あんた私のこと嫌いだったの? それ言うためにわざわざ?」
膝に水滴が落ちる。あ、泣いちゃってる、私。
「ちょ、ちょっと泣かないでよ!」
そこに無神経な発言が加わるから余計に泣けてくる。
「いや、泣くよこんなの! 私結構あんたとは仲良くできてると思ってたんだけど? 今日も、見たいテレビあったけど、もしかしたら好き、とか言われたら、とか考えて……。べ、別に期待してたわけじゃないけど、でももしそんなことになったらテレビなんて見てる場合じゃないじゃんとか思って、それで……。なのに。……なんで?」
頭がぐちゃぐちゃ。それなのに、私の背中を優しくさすってくれる好きな人。嫌いなのに優しくするって、ほんと何よこいつ。
「と、とりあえず泣き止んで! 俺が泣かせたみたいじゃん!」
「あんたが泣かせてるんじゃない!」
「ご、ごめん! あのきみ、は確かに嫌いだったんだけど」
「また嫌いって言った!」
これ以上私の心を打ちのめさないでほしい。
「あ、いや違うんだ。前にさ、卵の黄身好きかどうかって話になったじゃん」
「は? 卵?」
いきなり何の話? 唐突すぎる話題に涙が引っ込む。
「だから、俺はずっと卵の黄身が嫌いだったってこと言いたかったわけで」
「それ、3ヶ月くらい前の話でしょ。しかも休みの日に呼び出してわざわざ言うことじゃないし。私あんたの卵の黄身嫌いでしたを聞くために見たかったテレビをあきらめてここに来たってこと? え、それってすっごい間抜けじゃない?」
「君は間抜けじゃないよ!」
「いや、あんたが言うな!」
それからしばらく睨み合ってたけど、落ち着いて、ベンチで二人並んで黙っていた。
用が済んだはずの佐藤は立ち去る様子がない。私は佐藤と離れたくなかった。
時計を見ると、十二時に差し掛かろうとする時だった。
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