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アリスがお母さんと喧嘩をするたびに家出をするようになったのは、いつからだったかは思い出せない。
ただ、家出にはいつもアレンが付き合ってくれていた。アレンはアリスのたった一人の味方だった。
アレンは両親には「アリスを探しに行く」と嘘をついて、父の車にアリスを乗せて、小一時間、アリスの話し相手になってくれる。アリスの心の嵐が静まるまでの間、アリスとアレンは目的地のない秘密の旅をする。
誰にも邪魔されない二人だけの時間。お母さんとの喧嘩による不機嫌さも、アレンのそばにいると次第に消えていく。心が晴れたあとは、アレンにアリスを道で見つけたという話を作ってもらうのがお決まりのパターンだ。
家に戻ったとき、お母さんから「さっきはお母さんも言い過ぎたわ。ごめんね」と涙ながらに言われると、アリスはお母さんを許すことができる。
アリスにとって、お母さんからの心配という形で示される愛情こそ、求めているものだった。母の心配する顔を見ることで、彼女は自分が大切に思われていると感じた。
「母さんは家で待ってて。アリスは俺が必ず見つけるからさ」
「アレン、ほんとにありがとう。こんなときに手伝ってもらって。今まであなたにはたくさん迷惑かけたわ」
「そんなことないよ」
「……私とお父さんのこと、あなたたちがどう感じてるか、私が一番わかってるつもり。でもこんな結末にしかなれなくて……。私の力不足で。きっとあの子が——アリスが一番、気にしてるのよね。だって……あなたとももう会えなくなるんだから」
お母さんの話し方が、いつになく悲しさを帯びてきた。
お母さんの最後の言葉に、アリスの心はきゅっと締めつけられたように寂しくなる。
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