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パーティーでのこれって“偶然”?
新入生たちが学園生活に慣れてきたころ、新入生歓迎を兼ねた親睦パーティーが開かれる。
「ここでも“偶然”が多発しそうね。アリカはいいの? 」
「私には“偶然”は起こせそうにないわ。だって、思ってることそのまま言っちゃったりやっちゃったりする私には、到底無理だと思わない? 」
「そうね…。皆さんよくやるわよね。家で稽古でもつけてるのかしら? 」
立食形式の会場には音楽が流れ、ダンスを踊る生徒や教師たちが溢れていた。
もちろん、ルシオン殿下とリオス様、スカビオ様の周りには、多くのご令嬢たちが集まっている。
「さて、どんな偶然が起こるのかしら…」
と思っていたところに
ガシャガシャッ、ガチャーンッ‼
大変大きな音が響き渡り、会場がシーンと静まり返った。
見ると、1人のご令嬢がしゃがみこんでいて、その前にはなんとルシオン王子も座り込んでいた。
さらに王子の服には、ジュースや料理がべっちょりとかかってしまっていたのだ。
どうやら、とあるご令嬢が、“偶然”転びそうになり、“偶然”ルシオン王子にぶつかって、「大丈夫?」などと声をかけてもらうはずだったであろうところ…、
予想外のことに、ご令嬢は本当につまずいてしまい、慌ててテーブルクロスを引っ掴みながら、ルシオン王子目掛けて倒れこんでしまったようなのだ。
あまりの出来事に、周りの人たちは呆然としているし、転んだご令嬢は真っ青になって震えながら固まっている。
大変‼
アリカはさっとその惨状地帯へ駆け寄ると、まずはルシオン王子に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか? 立てますか? 」
「あ…、ああ…」
アリカに声をかけられて、ルシオン王子ははっと我に返り、差し伸べられたアリカの手を取りつつ立ち上がった。
「王子を控室へ」
アリカが呆然としているリオス達に言うと、リオスとスカビオもはっとして、急いで王子を連れて会場を去って行った。
「さ、あなたも、立って」
アリカは、固まっているご令嬢にも手を差し伸べて立たせ、そばにいた人に別室へ連れて行かせた。
「あなた、美化委員ですよね。パーティのスタッフにこのことを知らせて、それから掃除用具を持ってきてくださらない? 」
見覚えのある同じ美化委員の生徒に言うと、アリカは落ちて割れてぐちゃぐちゃになった皿の破片をまとめはじめた。
「アリカ! 危ないわ。それに汚れる」
「このままにしておくほうが危ないわ。慣れてるから大丈夫。エルセは手を出しちゃダメ」
大きな破片のところに、小さな破片をカチャカチャとまとめていく。
そこへパーティーのスタッフと、美化委員が掃除用具を持ってきてくれたので、ぐちゃぐちゃになった料理はスタッフに任せ、アリカは割れた皿を袋へと入れていく。
「ありがとうございます。あとは我々スタッフがやりますので」
「すみません。お願いいたします」
アリカが手を洗いに会場の外へ出ると、エルセとエキーザもついてきた。
「アリカ、大丈夫? 」
「私は、割れた皿をまとめただけよ。お店でもたまに皿を割ることがあるから、後始末は慣れてるの」
「お店って? 」
「エキーザ兄さま。アリカは町の食堂でバイトをしてるのよ」
「なんだって? 男爵令嬢が? 」
「だってうちは貧乏貴族だから。自分に必要なものを買うお金くらいは稼ごうと思って」
「知らなかったよ…」
エキーザは呆れたように呟いた。
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