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呼び出し
(痛いッ! もうイヤ~!)
あれから何か持ったり、触ったりするたび、刺さっている何かに当たった場合は、ピリッと痛みが走って、とてもつらい。
右手の人差し指はなるべく使わないように、と思っても、つい触ってしまうのだ。
(見えないくらい小さいものなのに、こんだけ痛いってどういうことよ)
教科書を持ったりめくったりする時も、痛むときがある。
はあ、と机に座って頬杖をついていると…。
「アリカ・アンセリウム嬢? 」
目の前に、赤みがかった短髪の綺麗な顔立ちの男子生徒が現れた。
えっと、この方って、確か…。
「俺はリオス・リムラントだ。ちょっと来てくれないか」
え? なんで?
不思議に思いつつ、レムレス様についていくと、学園内にある王族専用のサロンに案内された。
この王立学園は、代々の王族が通うことが多いので、専用のサロンが設けられているのだ。
明らかに一般生徒のサロンとは違う部屋の風格に、ほえ~とあちこち見ながら感心して部屋に入ると、そこにはルシオン王子とスカビオ様がいた。
えっ? 何が起きてるの?
これって“偶然”ってやつ??
私、なにか“偶然”を発生させてた???
はてなマークの頭のまま、とりあえずご挨拶を。
「王子殿下にはご機嫌麗しく…」
「ああ、いいんだ。学園では堅苦しい挨拶はしなくていい。どうぞ座って」
ルシオン王子は優しく微笑んで言ったけれど、先に座るわけにはいかない。
「なら、一緒に座ろう」
そう言ってルシオン王子がストンとソファに腰かけたが、リオス様とスカビオ様は立ったままなので、まだ座るわけにはいかない。
「リオスとスカビオも」
王子の言葉に、お二人が座ると、ようやくアリカもソファに腰を下ろした。
ふかふかの感触が心地よい。
その場の全員が座ると、サロン専用の執事が紅茶を淹れて、お菓子を出してくれた。
ああ、なんておいしそうなお菓子。
でも今は、それどころじゃない。
「さて、アリカ嬢。まずは礼を言わせてほしい。パーティーでは世話になった」
ルシオン王子が頭を下げたので、思わずアリカは立ち上がり、腰を低くした。
「あ、頭をお上げください。当然の事をしたまでで、王子にお礼を言っていただくほどのことではありません」
ひぃ~、こんなことさせちゃって、不敬罪に問われないのかしら??
「アリカ嬢、どうぞ座って」
王子に促されて、再びソファに座った。
「…最近、学園にいるとね、あまりに“偶然”が多く起きてしまっていて、かといって目の前で起きていることを見過ごすわけにもいかなくて…。
しかしパーティーの時のことは、あちらのご令嬢にとっても予想外の、まさに“偶然”の出来事だったようだ」
アリカはそっと手を、小さく挙げた。
「? 何か? アリカ嬢」
「は、はい。発言をお許しください。そのご令嬢はどうなったのでしょうか? 」
「ああ、心配することはない。あれはどう見ても、ただの、予想外の、“偶然”の事故だったからね。それに学園内でのことは、王族としてよりも、生徒としても立場として処理したいと思っている」
(お咎めはなし、ということね)
アリカは納得して、軽く頭を下げた。
が、またアリカは、またそっと、手を小さく挙げた。
「また何か? アリカ嬢」
発言をする時に手を挙げるアリカが面白いようで、ルシオン王子は、笑いをかみこらすようにして言った。
リオス様もスカビオ様も、心なしか顔が笑っているような…。
「恐れながら…。王子はただ私に、礼をされるためだけに、こちらへ呼ばれたのですか? 」
「ああ、そうだよ。人を助けることはウンザリするほどあっても、人から助けられたことはあまりなかったから、印象に残ってね」
印象に残った!
これは! まさに“偶然”の産物じゃないの!?
アリカは心の中でガッツポーズをした。
「あのあとの話を聞いたら、君はすぐにスタッフを呼ばせて、自らも手際よく片付けをしたそうじゃないか」
「あ、はい。私、美化委員ですので」
「美化委員…? 」
「はい。学園の清掃は専門の業者が行っていますが、日常的な園内のちょっとした掃除や片付けなどをする委員会です」
「そうだったね。そうか、君は美化委員だったのか。何にせよ助かったよ。それに、あのパーティーのあと、なぜか“偶然”も大分減っていて、ちょっと気が楽になった」
「それは…! 何よりでございますね」
「そうなんだよ」
良かったですね、ルシオン王子。
他人事ながらアリカもなんとなく気が楽になった気がして、王子と顔を見合わせて、にこにこと微笑みあった。
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