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もう痛くない
「あ、それでは私、そろそろお暇させていただきます。ルシオン王子には、これからも、安らかな日が続きますようお祈りいたしております」
「ありがとう」
アリカが立ち上がるとルシオン王子も立ち上がり、アリカに向かって握手の手を差し伸べてきた。
アリカがルシオン王子の右手を、自分の右手で握った時…、
「イッ…! 」
当たり所が悪かったようで、右の人差し指の先が痛み、思わず顔をゆがめて声が出て、殿下の手をパッと離してしまった。
「あっ、申し訳ございません! とんだご無礼を…」
ひぃ~、どうしよう…。
「どうしたんだ? 手が痛むのか? 」
「あ、はい…。実は、右の人差し指の先に、見えないくらいの破片みたいなものが刺さっているようで、触れた時の具合によって痛みが走るのです」
「破片って、何の? 」
「たぶん…、割れた皿とかの…。ユマさんは、そのうち自然に出てくる、って言ってくれたんですが…」
「それはパーティーの時のことじゃないか。スカビオ、すぐに馬車を」
「アリカ嬢、こちらへ」
スカビオ様は、さっと部屋を出て行ったし、リオス様は、すっとアリカをエスコートし出した。
え?何なの?
と思っているうちに、アリカは王子の馬車に乗せられ、なんと王宮へ案内されてしまった。
ルシオン王子は、すぐに王宮の主治医を呼び、アリカの指を診させた。
「ここは? 痛む? 」
「いえ…。アッ、そこ痛いですっ! 」
主治医に指先の痛むところを何度も確認されて、アリカは痛みに耐えていた。
痛いからもう触らないで、と言いたかったけどルシオン王子の手前、言えなかった。
「ここかな…?」
不意に主治医の持っているピンセットが、ぐいっと指先の組織を軽くえぐり取った。
「…ッ!!!」
あまりの痛みに、声が出なかった
「どう? 痛む? 」
主治医が指先をあちこち触ったり押しながら聞いてきた。
「…いえ、痛くないです。どこも痛くない!」
「良かった。取れたみたいね」
取れた! もう痛くない!
「わあ良かった! 先生スゴイ! ありがとうございます」
アリカはルシオン王子たちにも向き直り、お礼を言った。
「王子殿下、それにリオス様、スカビオ様も、ありがとうございます」
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