近所のばあちゃん

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 俺の実家の近所に住んでいるばあちゃん。  その人は、何故かいつも自分の家の外の、植え込みの低いブロック塀に座っている。  さすがに雨の日や雪の日は見かけないが、暑かろうが寒かろうが強風だろうが、欠かさずそこに座り込んでいる。  でも、家の外にいるからといって、誰かに話しかける訳じゃない。ただじっとその場に座っているだけだ。  何が楽しいのか知らないけれど、本人がそうしたいならと、誰もそれを止めることはなく、こちらから話しかけることもない。  そのばあちゃんを、進学で地元を離れていた俺は数年ぶりに見かけた。  ああ、今もあそこに座っているんだ。  話しかけるつもりはないから、ただそう思うだけで前を通り過ぎたけれど、実家での久しぶりの食事の時、ふとばあちゃんのことを思い出して母親に話した。  するとそれを聞いた母の返事は。 「あそこのおばあさんなら、あんたが大学に入った年の終わりに亡くなったわよ」  最初は冗談だと思ったが、人が死んだなんて不謹慎な冗談は口にしないと言われ、俺は母親の話を信じた。  でも、それが事実なら、俺が見たのは誰だったんだ?  ちなみに、久方ぶりの帰省から一人暮らしの自宅に戻る時には、もうあのばあちゃんを見かけることはなかった。  本当にもういないのか。だったら、あの日俺が見たばあちゃんは何だったのだろう。  まったく怖くはなかったけれど、やっぱり幽霊?  でも、幽霊になってまであそこに座っていたいだなんて、あれの何が楽しかったのだろうか。  俺にはまったく判らないな。 近所のばあちゃん…完
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