1

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

1

 一直線に伸びる石畳の道。疎らに行き交う足音。時折、それを押し退け車両の音が走り去る。  そんな喧噪の中で歩みを進める新品同様のブーツとその半歩後ろに続く手入れの行き届いた革靴は、コツコツと心地好い足音を立てていた。それはまるで数秒の録画を繰り返し再生しているかのような一定したリズムで、それが心地好さの理由の一つのなのだろう。  すると突然、そのリズムを崩した革靴は足早となりブーツを追い越すと、少し先の方で立ち止まった。そしてジャケットに袖を通していない腕が伸びるとドアを開き真っ白なシャツの袖がベストと顔を見合わせた。  ―――カラン。  ドアベルの音が鳴り響く中、丁度そこへロングコートの裾を揺らしながらやって来たブーツの人物は、そのまま流れるようにドアを通り店内へ。その後に続くスーツにハット帽の後姿。  材質が変わり足音も変わるが相変わらずのリズムを刻む双脚は真っすぐと進んだ。  それに合わせ手袋を着けた手は前後に小さく揺れ、コートから顔を見せたネクタイをキッチリ結んだ黒シャツは曲線を描いている。同時に後ろで結んだ髪も動きに合わせ揺れ動いていた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!