王都の道の真ん中で

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王都の道の真ん中で

ランガス様と会った日から、もう1ヶ月と5日。 毎日毎日、どうしても数を数えてしまう。 今日は孤児院慰問の、読み聞かせの日。 葡萄の森の物語っていう童話を用意して、とぼとぼと歩いて孤児院へ向った。 孤児院での読み聞かせは大成功。皆喜んでくれた。 でも私の元気の無さは気付かれて、特にシスター達に物凄く心配された。 普段の私はうるさいくらいだからね。仕方ない。 最近の私はちょっと暗い。自分でも分かるくらい。でも気持ちが立て直せないでいた。 だって…憧れ強めだったけど…多分…失恋ですよ。 1ヶ月過ぎたけどお店でも会えないし、連絡も無いし…。 思い上がってたのは事実だけどさ。流石の私でもションボリしちゃうよ。…遊ばれた…とは思ってないけど…。でも…恋人とは違ったんだろうな…。 孤児院から自宅に帰る予定の私は、とぼとぼと覇気のない歩き方をする。石畳の上を歩いていると、とぼとぼ歩きが悪かったのか躓いて転けてしまった。 「…あ、痛ァ…」 散々だ。しょんぼりしてる所に転けた。 しかも側を歩いていた人は飛び退き、転けたのを見て笑った。 他の人もクスクス笑ってる。 普段なら、あらら〜くらいで立っちゃうけど、今日の私には堪えた。泣きそう…。 泣くのを堪えて立ち上がった。スカートをポンポンと叩いて砂埃を払う。 そうしていると、歩いている反対側のお店の側を、馬車とそれに並走して馬に乗っている人がいるのを発見した。 そしてその馬には、騎士団の正装の格好のランガス様が乗っていた。 いつもなら心の中で拍手喝采状態だろうけど、今日の弱弱の私には無理だった。 少し後ずさった所で、何故かランガス様が私の方を見た。 凄く驚いた顔をしている。…と思ったら、馬から飛び降りた。 その行動に、反射的に私はその場から逃げ出した。 えっ?待って? 馬って馬上から飛び降りるもの!? と言うか、何かの任務中じゃないの!?追っかけてくるよ? アワアワしながら私は走る。 ちなみに走っても早歩きと言われる私だ。当然追いつかれそうになっている。 そしてダメ押しに、またしても躓く。 派手に転びそうになって、ギュッと目を瞑った。 その時、お腹のとこに腕が回った。そしてぶら下がるように支えられた。 「…あ、良かった…。間に合って良かった…」 背後から私を支えるランガス様の声は、当然耳元から聴こえる。 あの日は身体が熱くなった素敵なバリトンボイスは、今日は涙を誘う。 「…大丈夫?…ミリー?何かあった?…その…泣いてる?」 ランガス様はそっと私を地面に下ろし、反転しようとした。 「…やっ…!」 それに逆らって、両手で頭を庇うようにする。手にしていた荷物が地面に落ちたが、気にしてられない。 だって涙がボロボロ出てきて…止まらない…。 「…ごめん…。でも…泣いてる君を放っておけないよ…。何があったか、聞いても良い?」 優しげに話すランガス様は、前に会った時と同じ。優しくて紳士だ。 やっと会えた。皆が言ってたランガス様はやっぱり違うよ。 優しいよ。素敵な人だよ。 でも身分違いなのは本当。未亡人と交流はあってもおかしくないのかもしれない。 噂話しかこの1ヶ月聞いていない私は錯乱気味で、もう何が何だか。何を言っていいかも分からない。 結局私はランガス様に向き合うように体の向きを変えられ、更にランガス様は、私の顔が見えるように覗き込む。 「…そんなに泣かないで…。ミリー…慰めたいんだ…原因を教えて…。君が悲しそうだと、私も苦しい…」 そういうランガス様を見ると、凄く切なそうな顔をしていた。 涙が止まらない。私だって止めたいのに止まらない。 会えて安心して。でも節度を持って、適切な距離でって考えてた。だって身分違いだし。 けど一番辛かったのは…。 「…ごめんなさい…私…市井の身なのに…合わないのに…でも、…み、未亡…人の方と…」 「…え?待って。市井って?知ってるよ?未亡人?何の話?」 しゃくり上げながらまとまりのない話をしてしまう。でもランガス様は言葉足らずな私の言葉を拾っていく。 「…ラ、ランガス様には…良い人が…」 そこで言葉にならなくなり、子供のようにふぇぇ〜と泣いてしまった。 「…つまり…ミリー…君が泣いているのは私のせい?私が君を泣かせているの?」 ランガス様はそう言うと、私をギュッと抱きしめた。 「…ミリー…話をしたい。私に弁解する時間をくれる?…そして抱き上げる許可を。」 そう言うとランガス様は私を横抱きにして抱き上げた。 泣いていた私も流石にびっくりして、涙が止まった。 「…顔を伏せて…。君が泣いている姿を…誰にも見せたくない」 ランガス様が呟いた。 凄く近くで。この前と同じくらい近く。 「…退け…。道を開けてくれ」 低めの声が聞こえた。 そういえば…。 自宅に帰っていた途中だったんだから、めちゃくちゃ往来のある歩道の真ん中でした。 しかも気配から感じる。…囲まれていた? 皆に子供泣きしてるトコ見られた!?しかもランガス様を巻き込んだ!? 申し訳なさでアワアワしだした私に、ランガス様は目をやる。 「…私の屋敷は遠いから、悪いけど行きつけの所に連れていくよ?」 私は抱き上げられたまま連れさらわれたのでした。
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