縋る想い

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縋る想い

宮殿のような建物。 ここは確か高級ホテルだと思います。 ランガス様は私を抱き上げたまま、そのホテルに突入して行った。 カウンターでサインする時も、私を下ろさずに。 「…首に手を回して、少しだけ頑張って捕まってて」 そう言われて、言われるままにしがみつく。するとランガス様の腕で座るように抱き上げられた。 片腕で抱き上げられている!! その時、周りに目がいった。 めちゃくちゃ見られている。これはヤバい。 何がヤバいのか分からないけど、ヤバい。 ランガス様に迷惑かけまくっている。 しかし私にはどうする事も出来ず、ランガス様の首元に顔を埋めた。 「…ごめん…もう少しだけ待って。もう少しで下ろしてあげるから…」 カウンターから離れると、もう一度両腕で抱き直される。 ホテルの従業員に案内された部屋に入ると、私はソファに降ろされた。 お高そうなホテルが使っているソファなだけあって、とてもクッションが効いている。適度に沈むソファは座り心地抜群だ。 私の目の前にランガス様が跪いた。 その行動に驚いて、私は座ったままランガス様に身体を屈めた。 「止めて下さい!!」 ランガス様をソファに促す為に伸ばした手を、そっと掴まれた。そして手の甲に口付けがされる。 「…最初にお詫びを…。約束していた孤児院の慰問…一緒に行けなくて申し訳ない…」 「…お仕事だったんですよね?分かってますから!お願いですから、せめて座って下さい!!」 焦って少し声が大きく出てしまう。でもランガス様は隣りに座ってくれない。 「…多分…私の噂話を聞いたんだろう?…でも…未亡人とか、恋人とか…私にはいないよ?…だって…君に伝えただろう?」 手は離されないまま、私を見あげてくるランガス様。凄く切なげで、私まで切なくなってきた。目が潤んできた。 「…今、私は君の信頼を失いかけているんだろう?…あの日…、君が凄く好きだと…たくさん伝えたつもりだった。君の気持ちはともかく、私の…君への恋慕は十分に伝わったと思っていた…」 確かにあの日。たくさん好きだと聞いた。そしていっぱい口付けされた。凄く幸せな時間だった。 「…でも不十分だったんだと、今分かった…。こんな事になるのなら、…あんな仕事を請け負っている場合じゃなかった…。君の側を離れずに、何度でも繰り返し…君に愛を囁けば良かった…」 握られた手に、ランガス様の額が寄せられる。 私の視界には、跪いて頭を下げる姿が映る。 少し揺れる声すら切なげで、とうとう私の涙がポロポロ零れてしまう。 「…ごめんなさい…怖かった…。こんな素敵な紳士の…ランガス様が…たかが市井の私に…」 「…たかが…そんな言葉を使わないでくれ。…信頼を得られなかった私が悪いだけだ…。だから…これから…君がもう十分分かったと思う程、私の想いを伝えよう。今日も、明日も…」 ランガス様の唇が、捕らえたままの私の手に触れる。そして私の手はランガス様の頬を包むように持っていかれる。その手に吸い寄せられるように、ランガス様の唇が寄っていく。手の平に熱い吐息が触れる。 「…覚悟して…。もう…うんざりだと言われても…止めれないよ?」 手の平へ口付けながら私を見たランガス様の瞳は、熱が籠っていた。その目に、胸が痛いくらい高鳴った。 「…会えなかったひと月…どれほど君を好きだと思ったか…、どれほど…君の肌を夢見たか…」 ランガス様が膝立ちの状態になって、私の顔に近付いてくる。 「…嫌なら言って…。今から君を抱く。…嫌なら…今なら帰してあげれる…」 両方の二の腕を掴んだ手に、少し力が入ったのが分かった。 「…私の全てで…どれほど君に恋焦がれたか…君に伝える…」 熱烈な告白に、私は自分がどんな顔をしてランガス様の前に座っているかも分からない。 妖艶な女性になって、紳士なランガス様に見劣りしないようにならなきゃ…そう思っていたはずなのに、動揺してそんな素敵な女性の姿にはなれてない気がする。 「…でも…私…淑女でも妖艶な女性でもなくて…ランガス様に似合わない…」 自分で口にして、更に傷付いた。頑張ろうって思ってたのに、気付いたら自信の無い私に意識を乗っ取られていて、ひと月の間、大した努力も出来てなかった。 「…分かった…。」 私の言葉に、ランガス様が返事をした。 あ…。呆れられちゃったかな…。 ランガス様の顔が見れなくなって俯いた。 ランガス様がスっと立ち上がった。 立ち去ってしまうのかと見上げた私の顔は、なんて情けない顔だっただろう。見下ろすランガス様の目と合う。 そして勢いよく抱き上げられた。 「…どれほど私の努力が足りなかったか…。今からしっかり伝える。言葉で、熱で…。しっかり…思い知って…」 そう言うと、抱き上げられた私は寝台へと運ばれて行った。
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