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侯爵家での話
ランガスは実家である侯爵家へ呼び出されていた。
父が楽しそうな顔をして笑っている。
実はこの表情…。少し予測は着いていた。
先日ミリーを見掛け、最終的には民衆に囲まれた中抱き上げてその場を去った事。そしてその場からの移動も彼女を腕から離さず、名の知れたホテルを使用した事。
まぁ、バレないわけも無い。
バレても構わないが、この面白そうな顔はいただけない。
「宰相閣下殿?口元が随分緩んでらっしゃいますが?」
「父とは呼ばずにそう呼ぶか?」
相変わらずニヤニヤしている父が鬱陶しい。
「まぁ、跡を継ぐのは弟のタルーガだし?お嫁さんは市井の子でも私は気にしないよ。お前が嫁を娶る方が大事。結婚する気もなかったくらいだから」
「…許可は初めから求めてませんが、認めて頂けるのであれば今後も良好な関係が築けると思います」
「…お前ねぇ…。私とお前は親子だよ?もう少し親子らしい会話をしよう」
わざとらしく語り掛ける我が父を、目を眇めて見る。
ふざけた態度だが、腐っても“宰相”なのだ。何処までも腹に一物がある。むしろ一物で済めば良いほうだ。
だが、今回はミリーについての調べで大した事が分からなかったのであろう。だからこそ呼び出されたのだ。
私とて、先日彼女と話をして勘づいたに過ぎない。
彼女を守る為に、財力と権力が必要だと感じた。
但し役職に着くのではなく、実権を握るのみの権力。
ミリーの側から離れずに、しかし実権を握る。
その為に、これからは中々の努力を有する。しかし彼女の為なら頑張れる。
そして目の前の男からも守らなければならない。
「…此度は何用で?談話なら、先日したばかりでしょうに。」
「…そりゃー、息子のお嫁さんが気になったんだよ。父としては当然じゃないか」
「…彼女は普通の市井の女性です。ご存知の通り、貴族の女には疲れ果てました」
私の言葉に、父は笑い出す。
「お前の周りは大変だったもんなぁ。当人を無視して、勝手に痴情のもつれがあるんだから」
クックッと父は楽しそうに笑っている。此方は何も楽しくない。痴情も何も無い女達が勝手に私を取り合う滑稽な話に過ぎなかった。しかしそれが毒殺まで発展するのだから、たまったものではない。
しかもその相手の1人が公爵家の一人娘だった。
国としても、私個人としても王宮から出た方が良いと判断し、総司令官を辞した。
これはもう終わった話だ。
「…今後は、私は商いで収益を得ようと思ってますので、王国での役を執り成すのはお止め下さい」
「…その市井の女性の為に?」
「そうです。逆に子爵でいる事が良くないのであれば市井に下っても構いません」
ふーん。微妙に納得していない顔をする父だが、私から得られる情報は無いと諦めたのであろう。
食事を勧められたが断り、実家を後にした。
◇◇◇◇◇◇
先日、ミリーは聞いた事も無い話を口にした。
農業とは縁もゆかりも無い彼女がブドウの育成について語り、誰もが考えつくこともない“鉄道機関車“という移動手段を、あたかも当たり前に存在するかのように語った。
そしてその時に口にした“石炭”についてだ。
この石炭は、それこそこの前発見されたばかりの新しい燃料。市井の者ならず、貴族の中でも知っているのは少ししかいない。
この世界には伝承されている話がある。
『星渡りの伝え人』
別の世界を生きた記憶を持ち、この世界に再度誕生する伝え人。彼の者は、この世界に様々な知識をもたらす。
童話のような話だ。
しかしミリーの語りは、その童話に信憑性をもたらすには十分だった。
正直、私自身は『星渡りの伝え人』には興味が無かった。
しかし実際に、ミリーが『星渡りの伝え人』であるならば、また違う捉え方をしなければならない。
ミリーが『星渡りの伝え人』であるとバレたなら、国は彼女を保護と称して捕らえるだろう。
それを阻止するには、私が彼女を守るに値するだけの実力をつけなければならないという訳だ。
総司令官や宰相なんかよりも難題な話だ。
しかしやらなければ、彼女の側には居られない。
ミリーは自分を随分と下に見ていたが、実際は私の方が努力しなければ側に居る事も出来なくなる。
そんな訳で、とにかく思いつく所から手を付けていこうと画策する。
そこでミリーの『鉄道機関車』と『ブドウの育成』『ワインのブランド設立』の案を実現していくことにした。
二人で実現した事にして、二人の愛の証にしていくのだ。
とりあえず一石二鳥くらいにはなりそうだ。
そう思うとやる気も出てくるというものだった。
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