友人との食事の席にて

1/1
前へ
/67ページ
次へ

友人との食事の席にて

その食事処は程々の人気店。 その日はそこまで混みあってなく、友人同士の談話をするには良かった。繁盛していれば長居をしづらい。 その店の中で、4人がけのテーブルに女性二人が座っていた。 待ち合わせをその店にしていたので、あと一人が来れば全員が揃うようになる。 「ね、アミナ…。この前さ、サンマールストリートの歩道ですっごい事あったって。聞いた?」 「…聞いた…。」 人気洋裁店を経営するアミナと、花嫁修業中のハンナはもう一人の待ち人を待ちつつ話をしていた。 「オーブラカ卿って、冷酷で女性に対してすっごい扱い悪いって聞いてたのにねぇ〜。お姫様抱っこして意中の女性を連れ去ったらしいもんね〜」 ハンナは元々観劇や恋愛小説が大好きで、ロマンチックな出逢いや逢瀬を夢見る女性だった。 そのハンナがランガスの噂を聞いて、頬をほんのり赤くし、興奮気味に語っている所だ。 一方、正面に座るアミナは対照的だ。 観劇や恋愛小説のロマンチックな話はアミナも好きだ。 しかし今回に限っては苛立ちを感じていた。 別にランガスに憧れていた訳では無い。 むしろ無関心だったが、今回の件で気に食わない人物になった。 「…女を邪険にする男なんて、呼んでないっつーの」 「…いや、今回は違うじゃない〜。すっごい大事そうに連れて行ったらしいよぉ〜?」 アミナの発言の意図が読めないハンナは、観劇の感想を言うかのように浮かれて話を続けている。 別にランガスが勝手にロマンス小説を実演するのは構わない。 それこそ『勝手にしとけ』だ。しかし相手が問題だった。 ハンナは、この様子だと相手が誰かは知らないようだ。 しかしアミナは知っていた。親友のミリーだ。 純粋で世間に擦れていない大事な友達であるミリーが、気付けばランガスという名の知れた最低男に捕まっていた。 とにかく本人に話を聞いてみないことにはどうしようも無いが、穏便に別れさせる事は出来るのであろうか。アミナはそう考えていた。 「お待たせ〜。ごめんね〜。閉店間際に騎士養成校の先生が来てね〜…」 「お疲れ様〜。はい。座って、座って!!」 浮かれたままのハンナは、ミリーに隣の席を勧める。 進められたまま、ミリーはその席に着席した。 「フフ…軽く先に飲んじゃう?」 テーブルには白ワインのボトルが置かれている。そして来店直後に、店員によって追加分のグラスも配されている。 返事を聞かないまま、ハンナはミリーの分のグラスに白ワインを注ぐ。 「ありがとう〜。ワタワタしちゃったけど、思ったよりは早く来れて良かった〜。…で?さっきは何の話で盛り上がってたの?」 ミリーは来店直後二人の席に近付く時、楽しそうに話していた二人を見ていた。自分が来た事で話を中断させてしまったのだ。話に混ぜてもらおうと、自分から話を切り出した。 「ふふふ…最近噂の“オーブラカ卿”のロマンスの話よ」 口元を手で隠しながら、ハンナは言う。 来店早々、ランガスの話が出てきてミリーは心底驚いた。驚いて派手にむせる。軽く鼻に入ったほどだ。 「…ちょっと…大丈夫?」 「…は…鼻…痛い〜っ」 涙目になるミリーを、半分呆れるような目で見ながらもアミナは声をかけた。 「…う…噂って…そんなに…?」 ミリーは恐る恐る聞いてみる。当事者だ。聞くのも怖いが、気になる。 「そりゃー、“容姿端麗““容貌魁偉“と謳われるランガス・レオン・オーブラカ卿ですからね!!話題にならないわけもないよね〜。初ロマンスじゃない!!」 「“人面獣心“”冷酷無比“とも言うけどね〜」 アミナはハンナの言葉に重ねるように言う。 「…アミナ…随分オーブラカ卿の事嫌ってる?カッコイイじゃない。何でそんな悪意満載なのよ?」 先程からのアミナの態度に、流石に気付いたハンナは不思議そうにアミナに聞く。 「…関係ないとこで“色男“してるなら気にしないわよ。…ねぇ?…ミリー?…そう、思わない?」 何やら物言いたげなアミナに、ミリーはジリジリと追い詰められていく感覚を覚える。 何やら怒っている。責められるような事はしてないと…思う。 アミナはしっかり者の姉御肌の女性だ。親友でもあるけど、ミリーにとっては頼りになる姉のような存在でもあった。 そのアミナがどうやら怒っている。 ハンナもアミナの言葉に、どうすれば良いか分からずに黙った。 「…怒って…る?…どうして…?…あっ!ランガス様が怖い人って思ってる?いやいやいや!!すっっっごい優しい素敵な紳士様だよ?カッコイイし?もう崇拝しても良いくらい!!もう、本当にカッコイイし?何でそんな冷酷とか噂になるの?ってくらいめっっちゃくちゃ優しいし、話したら『ふんぁ〜〜っ!!』ってなっちゃうくらいよ!?カッコイイし?」 噂話をしていた二人は、きっとランガス様を誤解しているんだと思い、ミリーは『ランガス様アピールプレゼンテーション』を開始する。 前に噂話を聞いた時は思わず身を引いてしまったが、今は違う。 なんと言っても、ランガス様は私の愛しの人ですからっ!! 鼻息荒く、必死になってアピールする。 語彙力が低下しているのはご愛嬌。いつもの事だ。 「…『ふんわぁ〜〜っ』じゃないよ…。こっ……っの!!バカ娘がっっ!!」 アミナも、何処かのお父さんのように怒り出した。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

309人が本棚に入れています
本棚に追加