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友人との食事の席にて
その食事処は程々の人気店。
その日はそこまで混みあってなく、友人同士の談話をするには良かった。繁盛していれば長居をしづらい。
その店の中で、4人がけのテーブルに女性二人が座っていた。
待ち合わせをその店にしていたので、あと一人が来れば全員が揃うようになる。
「ね、アミナ…。この前さ、サンマールストリートの歩道ですっごい事あったって。聞いた?」
「…聞いた…。」
人気洋裁店を経営するアミナと、花嫁修業中のハンナはもう一人の待ち人を待ちつつ話をしていた。
「オーブラカ卿って、冷酷で女性に対してすっごい扱い悪いって聞いてたのにねぇ〜。お姫様抱っこして意中の女性を連れ去ったらしいもんね〜」
ハンナは元々観劇や恋愛小説が大好きで、ロマンチックな出逢いや逢瀬を夢見る女性だった。
そのハンナがランガスの噂を聞いて、頬をほんのり赤くし、興奮気味に語っている所だ。
一方、正面に座るアミナは対照的だ。
観劇や恋愛小説のロマンチックな話はアミナも好きだ。
しかし今回に限っては苛立ちを感じていた。
別にランガスに憧れていた訳では無い。
むしろ無関心だったが、今回の件で気に食わない人物になった。
「…女を邪険にする男なんて、呼んでないっつーの」
「…いや、今回は違うじゃない〜。すっごい大事そうに連れて行ったらしいよぉ〜?」
アミナの発言の意図が読めないハンナは、観劇の感想を言うかのように浮かれて話を続けている。
別にランガスが勝手にロマンス小説を実演するのは構わない。
それこそ『勝手にしとけ』だ。しかし相手が問題だった。
ハンナは、この様子だと相手が誰かは知らないようだ。
しかしアミナは知っていた。親友のミリーだ。
純粋で世間に擦れていない大事な友達であるミリーが、気付けばランガスという名の知れた最低男に捕まっていた。
とにかく本人に話を聞いてみないことにはどうしようも無いが、穏便に別れさせる事は出来るのであろうか。アミナはそう考えていた。
「お待たせ〜。ごめんね〜。閉店間際に騎士養成校の先生が来てね〜…」
「お疲れ様〜。はい。座って、座って!!」
浮かれたままのハンナは、ミリーに隣の席を勧める。
進められたまま、ミリーはその席に着席した。
「フフ…軽く先に飲んじゃう?」
テーブルには白ワインのボトルが置かれている。そして来店直後に、店員によって追加分のグラスも配されている。
返事を聞かないまま、ハンナはミリーの分のグラスに白ワインを注ぐ。
「ありがとう〜。ワタワタしちゃったけど、思ったよりは早く来れて良かった〜。…で?さっきは何の話で盛り上がってたの?」
ミリーは来店直後二人の席に近付く時、楽しそうに話していた二人を見ていた。自分が来た事で話を中断させてしまったのだ。話に混ぜてもらおうと、自分から話を切り出した。
「ふふふ…最近噂の“オーブラカ卿”のロマンスの話よ」
口元を手で隠しながら、ハンナは言う。
来店早々、ランガスの話が出てきてミリーは心底驚いた。驚いて派手にむせる。軽く鼻に入ったほどだ。
「…ちょっと…大丈夫?」
「…は…鼻…痛い〜っ」
涙目になるミリーを、半分呆れるような目で見ながらもアミナは声をかけた。
「…う…噂って…そんなに…?」
ミリーは恐る恐る聞いてみる。当事者だ。聞くのも怖いが、気になる。
「そりゃー、“容姿端麗““容貌魁偉“と謳われるランガス・レオン・オーブラカ卿ですからね!!話題にならないわけもないよね〜。初ロマンスじゃない!!」
「“人面獣心“”冷酷無比“とも言うけどね〜」
アミナはハンナの言葉に重ねるように言う。
「…アミナ…随分オーブラカ卿の事嫌ってる?カッコイイじゃない。何でそんな悪意満載なのよ?」
先程からのアミナの態度に、流石に気付いたハンナは不思議そうにアミナに聞く。
「…関係ないとこで“色男“してるなら気にしないわよ。…ねぇ?…ミリー?…そう、思わない?」
何やら物言いたげなアミナに、ミリーはジリジリと追い詰められていく感覚を覚える。
何やら怒っている。責められるような事はしてないと…思う。
アミナはしっかり者の姉御肌の女性だ。親友でもあるけど、ミリーにとっては頼りになる姉のような存在でもあった。
そのアミナがどうやら怒っている。
ハンナもアミナの言葉に、どうすれば良いか分からずに黙った。
「…怒って…る?…どうして…?…あっ!ランガス様が怖い人って思ってる?いやいやいや!!すっっっごい優しい素敵な紳士様だよ?カッコイイし?もう崇拝しても良いくらい!!もう、本当にカッコイイし?何でそんな冷酷とか噂になるの?ってくらいめっっちゃくちゃ優しいし、話したら『ふんぁ〜〜っ!!』ってなっちゃうくらいよ!?カッコイイし?」
噂話をしていた二人は、きっとランガス様を誤解しているんだと思い、ミリーは『ランガス様アピールプレゼンテーション』を開始する。
前に噂話を聞いた時は思わず身を引いてしまったが、今は違う。
なんと言っても、ランガス様は私の愛しの人ですからっ!!
鼻息荒く、必死になってアピールする。
語彙力が低下しているのはご愛嬌。いつもの事だ。
「…『ふんわぁ〜〜っ』じゃないよ…。こっ……っの!!バカ娘がっっ!!」
アミナも、何処かのお父さんのように怒り出した。
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