孤児院慰問のご褒美予告

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孤児院慰問のご褒美予告

孤児院の経営は、大変そうだ。 子供たちの食事や衣類、勉学に使う筆記用具なんかも足りない。 しかし最近、孤児院の経営者が変わったみたいだった。ボランティアで読み聞かせに来ている私は、内情はシスターから聞き及ぶだけだったが、食事と筆記用具は新しい経営者の方が直ぐに手配してくれたようだ。おかげでとても助かっているとシスターから大絶賛である。 生活が潤うのは、大事。 私も紳士様を見て潤っている。 潤うと活力が出てくるから、活動的になるよね。 子供たちも、少し顔色が良くなった気がした。 「ランガス様が紙とペンを下さったんだ!」 「この前ランガス様がクッキーをくれたんだよ」 「花壇のお花の苗はランガス様が持って来てくれたんだ」 子供たちが私を囲いながら必死に教えてくれる。 ランガス様と言うのか、孤児院を助けて頂いた貴族様は。 慈善事業だろうと何だろうと、孤児院が、子供たちが助けてもらえるなら良い事だ。 「良かったね〜っ!」 まとめてみんなに抱きつきながら、私も一緒に喜んだ。 読み聞かせを終えて、みんなにバイバイと言って外に出る。 今日は天気が良いから、お店まで歩いて帰ろう。 読み聞かせに使った大きな本を脇に抱え、歩み始めた。 ◇◇◇◇◇◇ 3時になるまでは、書籍棚の整理を行ったり貸し出し書籍の修繕を行ったりする。 いくら父がオーナーとは言え、やはり働かない訳にはいかない。まぁ、元々本が好きだからあまり苦にはなってないけれど。 「ミリーさん、今日オススメの本の紙は書く?」 従業員のオルムが聞いてきた。 よくぞ聞いてくれました。ふふんっと私は得意げな顔をする。 毎月一回、前世の記憶を頼りに“今月のオススメ本”ポップを書いているのだ。以外に常連客に好評で、新しいジャンルの開拓が出来たと喜ばれたりする。 好きな本を他の人が好きになってくれるって嬉しい。 「今から書くんだ!」 今月オススメの本を手に、デスクでポップを作成する。 今月は新鋭ミステリー作家の新作。 カウンターの横に置くからそんなに大きな紙ではないけど、ほんの少しだけ中身に触れて逆に読みたくなるように、しっかり宣伝文を書いていく。 貸し出し書籍も大事だけど、やはり売ってる本も買い手がないとね。 あーでもない、こーでもないと考えながら構図を考えていると夢中になって周りの声が耳に入らなくなってくる。 でもそんな時、ふっとポップの上に大きな影がかかる。 「⋯ん?」 顔を上げ真上を見上げると、そこにはご褒美⋯いや、紳士様がチラシを覗き込んでいた。 顎に手を当て、ふむふむと感心したような顔で。 その仕草も頂きました。美形は何をしても良いーーーっ!! ⋯じゃなかった!!そんな堪能してる場合じゃない。 「⋯し⋯紳士様!?」 思わず仰け反りながら叫んでしまう。呼び名が分からないんだから、“紳士様”と読んでしまった。 「⋯これは失礼。綺麗な字を書いているなと見とれてしまったんだ。⋯フフっ⋯」 「あぁあぁあ〜⋯ご⋯ごめんなさい⋯叫んでしまって⋯」 紳士様に声まで掛けられてしまった。 ファーーーっ!! 脳内の私が叫んでる。 紳士様の顔が私の顔に接近する。 目を剥く私はどれだけ間抜け面だろう。今はそんな事を考える余裕もないけれど。 鼻腔に紳士様の香りが漂ってきて、ぽわ〜ってしてますから。何を考えろと!? 紳士様の顔は、私の右耳の側に降りてきた。 右頬⋯微妙に紳士様の体温が感じられる。 紳士様の両手が後ろから両肩に置かれ⋯。耳許で。 「⋯私は君に“紳士様”と呼ばれているんだね。⋯嬉しいね⋯最高の褒め言葉だ」 ⋯もう言葉にならない⋯。 鼻血出そう。いや、噴きそう。 素敵な方は、顔も身体も体臭も熱も良いんですか!? 「⋯この店のオススメ本は、君が勧めてくれる本なんだね。毎月楽しみにしていたんだ」 そっと耳許から離れた紳士様は私の横に並んだ。 「⋯座ってもいいかい?」 隣りのイスを指差し、彼は私に言った。 そのバリトンボイス。拒否する奴がいたら、私が睨む。小心者だから、それ以上は出来ないかもしれないけど。 「⋯は⋯はっ⋯はいぃ〜〜っ!!どうぞっっ!!」 食い気味で言ってしまった。 紳士様は面白そうに笑いながら隣りに着席する。 もう仕草も素敵。 もう私、1年くらい良い事無いかもしれない⋯。 「⋯初めまして。私はランガス・レオン・オーブラカ。ランガスと呼んでくれ。⋯実は君にお礼も兼ねて、お茶のお誘いをしようと思っていたんだ。」 紳士様は私の方に身体を向け、ニッコリ笑う。体格差があるから、私を覗き込む為に首を傾けて見つめてくる。 顔が熱い。いや、身体が熱い。 全身の血が身体の中を駆けずり回っている。もう音速で回ってる? 大体前世だって今だって、男性に対して免疫のない私はどうしようもないくらい動けない。 「⋯明日⋯は急かな?午後からでも時間を頂けないかな?⋯レディ⋯名前を伺ってもよいかな?」 「⋯は⋯はいっ。ミリーと言いますっっ!!」 最早私は忠犬。言われるままに名前を答えた。 紳士様は相変わらず笑っている。 でもちょっと待った。 紳士様改め、ランガス様は“お礼”と言った。 お姿を何時も堪能させて頂いている私がひれ伏す事はあっても、ランガス様にお礼を言われる事など思いつかない。 私はコテンッと首を傾けて思案する。 「⋯先日、慈善事業の一環で孤児院を買い取ったんだ。」 ランガス様の言葉に、孤児院の子供たちの声が脳裏に思い出された。 あ〜っ!!確かに!! ランガス様って呼ばれてた!聞き覚えがある! 「⋯それでね⋯」 ランガス様の顔が再び私の耳許に近づく。 「⋯次の読み聞かせの本を持って、私の家に来てくれたら嬉しい。子供たちより先に知る特権を私にくれないかい?」 耳許で囁かれた。 あげます!!あげます!!そんな事、何なら今すぐにでも! 私は鼻息荒く、フンフン言いながら頭の中で叫んだ。つもりだった。 「⋯今はまだ、楽しみに取っとくよ。」 クックッとランガス様は笑いながら言う。 あら?気付けば心の声は本当の叫びになってたみたい。恥ずかし⋯。 ランガス様は椅子からゆっくり立ち上がった。 「⋯明日⋯同じ時間で大丈夫?迎えに来よう」 ランガス様は私の手を取り、手の甲にキスすると素敵な微笑みを残して颯爽と去っていった。 明日⋯読み聞かせ⋯。 次の読み聞かせの本は確かに決めているけど⋯。 ⋯⋯⋯明日!? ランガス様の落としていった爆弾のような衝撃発言に、私は戦くのであった。
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