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囀る小鳥を想像する
ランガスは子爵を賜っている者だ。
普段の仕事は、主に憲兵の管理だ。
2年ほど前に子爵を賜った。ちょうど良い機会だったので両親と住む家を出て、母の生家に移り住んだ。
自宅の屋敷は、自分と側仕えと数名の使用人。
仕事を終えて屋敷に帰ったランガスは、自室でのんびり今日の事を思い出していた。
それは可愛い小鳥の事。
最初は教会の孤児院の慰問で見かけた。
そこの子供たちとじゃれている姿。そして本を読み聞かせる時の可愛い声。微笑ましくて、魅了された。
そこで慈善事業と称して孤児院を買い取った。
貴族たるもの、下々の者に手を差し伸べるべき。
そんな言い訳をして、偽善者ぶった。
数度見かけた小鳥は、偶然にもよく立ち寄っていた書籍店の娘だと言う。本だけ見て直ぐに立ち去っていたので、小鳥の存在は気づいていなかった。
女性には、不用意に近づくと付き纏われるので、無意識に避けていたようだ。
しかし今回は違った。
小鳥の囀りを聴きたくて、自分から近付いた。
顔から首にかけて真っ赤に染まった彼女は、いままで見ていたどんな彼女よりも愛らしかった。
小さな口で紡ぎ出す囀りは耳に心地よいトーンで、スムーズにランガスに届いた。
「⋯可愛かったな⋯」
思い出すとつい微笑んでしまう、そんな愛らしさだった。
明日はそんな愛らしい彼女を家に招く。
街で人気のスイーツに紅茶。準備も整っている。
さて。
読み聞かせるのは、彼女か自分か。
楽しみで今日は中々眠りにつけそうになかった。
◇◇◇◇◇
一方、ミリーは明日ランガスに読み聞かせる本を準備した。
お気に入りのワンピースは、柔らかい生地でスカート部分はフリルが幾重にも重なったもの。
見た目は平凡でも、あんな素敵な紳士様の横に並ぶのであれば少しでも足掻きたい。
それにしても⋯ランガス様が読み聞かせを聞くの?
私はぼんやりと疑問について考えてみる。
子供向けの本だと言う事は、ランガス様は十分に分かっているはず。
そこで、私は閃いた。きっとお家に小さい子がいるんだわ。
出来ればお姉さんの子とかであって欲しい。
きっと既婚者ならお家になんて呼ばないはず。
鼻息でフンフン言いながら考える。
子供相手なら、孤児院で随分慣れた。
懐いて貰えたら良いな。
明日の話は、封印されたお姫様を助ける王子様の話。星屑の王子と眠りの姫。
お姫様を助けるのに、王子様は冒険してたくさんの星屑を集める。そしてその輝く星屑をお姫様に届けるとお姫様は目覚めるのだ。
小さい頃、王子様が頑張るこのお話が大好きだった。
なんと言っても、姫のために王子様が頑張るんだよ?
女の子は憧れるでしょ。
ランガス様のお家は、きっと素敵なお屋敷。
ほんのちょっと、私もお姫様の気分になれちゃうかも。
なんたって、ランガス様のエスコートで歩くんだから。
それだけでも鼻血モノだわ。
私はさっきまでは絵本の内容を考えていたのに、既にランガス様の素敵具合を褒め称える脳に切り替わった自分に感心した。
現金な⋯。でも仕方ない。
それ程ランガス様は素敵な紳士様。
憧れる気持ちは、女性なら当たり前だわ。
きっとモテるんだろうな⋯。
ちょっと後ろ向きになりつつある気持ちに焦った。
いけない、いけない。調子に乗っては駄目。
きっと最近お仕事とボランティアを頑張ってたから、そんな私へのご褒美なんだわ。
自分に言い聞かせて、私は明日に備えて眠る事にした。
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