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とある書籍店の店員
その日は雲ひとつ無い晴天だった。
今日は何時も行く孤児院で子供たちに読み聞かせを行い、拍手喝采の中終了した。
それはよくある童話の読み聞かせ。
だけど私の語り口調が子供たちに好評を得ていた。
子供たちが床に座る前に椅子に座り、絵本を開いて膝に置く。片手でそのページを閉じないように押さえながら、もう片手は観劇の演者のように振り付けて演じる。声だって、キャラクターに応じてちゃんと変える。
「ミリー!凄かった〜っ面白かった!!また読んでくれる?」
私、ミリーの周りを子供たちが囲み、話を聞き終えた後の興奮を伝えてくれた。
「もちろん!!…次は森の塔のお姫様のお話を、お店で探して持ってくるよ」
私の言葉に、子供たちは両手を上げてはしゃぎながら大喜びだった。
そんな子供たちと別れを告げ、私は勤め先の書籍店に戻ってきた。
そこは商人である父がオーナーで、私が経営に携わる書籍店。
絵本から小説、多種多様な本が並ぶ街の本屋だ。
そして変わっているのが、貸出本も同時にしている事。
図書館ほどでは無いが、写本した本を貸し出すのだ。
貸し出し用スペースの店舗内にデスクとイスが設置され、ミニ図書館のように利用者は使う。
ミリーは店の経営の他、書籍の整理と写本を行う仕事を行っていた。
あぁ…パソコンが欲しい。いや、プリンターも。
ミリーはそう思いながら、幼い頃から行っている写本を行う。
7歳の頃、本棚から絵本を取り出そうとして床に落ちた事があった。足台から足を踏み外し、床に本と一緒に派手に落ちた。
その時、自分には“前世の記憶”がある事を知った。頭を打って思い出したのだ。
なんてパターンな思い出し方だ。
私はそんな事を最初に思った。漫画のようだ。
とにかく“前世”を思い出した。
とはいえ取り立てて優秀だった訳でもなく、平々凡々と生き、25歳で本棚から取り出した本と一緒に足台から足を踏み外して床に落ちて亡くなったようだ。
その前世で、私はブックカフェによく行っていた。
だから“ブックカフェ”が欲しかったのだ。
父に強請り、貸し出し書籍店を実現させた。
裕福な商人の父は、中々に柔軟な人だった。
書籍店と貸し出し書籍店の併設を許可し、あっという間に営業を始めたのだ。
儲けはボチボチだったが、輸入業が繁盛しているから構わないと営業を続けた。
数年すれば固定客が出来、今もボチボチ営業中なのだった。
ミリーは店に戻り、オーナーの娘の権限で、貸し出し用スペースのデスクを一部使って写本を行う。
そしてそれを貸し出すのだ。
次の孤児院への慰問で、約束した絵本を読み聞かせするために、ミリーは絵本を探し始めたのだった。
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