幼馴染みも塵も積もれば

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 『(みなと)がアンカーなのはわかるわよ? でもその直前が私って…。私、あまり足速くないのに…。 いっそ、速い子に変わって貰おうかな…?』  『氷華(ひょうか)ちゃん、むしろこれはチャンスだと思わない?』  『チャンス…?』  『そう。チャンスだよ。 氷華(ひょうか)ちゃんは、どんな風に走っても良いよ。 最終的にアンカーの俺が、一位を取ってあげる。』 (みなと)はさらりと言った。  『は、はぁ…?無茶よ。私がもし、走る子達の中で、一番足が遅かったらどうするの?』  『関係ないよ。だって、クラスで一番足が速いのは俺だよ? むしろ、ハンデをあげなくちゃ。』 (みなと)は意地悪く笑った。  『私だってさすがにそこまで足が遅くないわっ、ハンデは言いすぎよっ』  『あはは、ごめんごめん。でもその調子なら、氷華(ひょうか)ちゃんなら、きっと大丈夫だよ。』 何を根拠に、とその時は思った。  運動会の当日のリレーで氷華(ひょうか)は結局二人に抜かれて、(みなと)にバトンを渡した。 さすがに優勝は望み薄かと思われた中、(みなと)はぐんぐんと一人、二人と抜いて、見事優勝を勝ち取った。 当時の事は、今でもよく覚えている。 他でもない、(みなと)氷華(ひょうか)の背を押したから。  もし、(みなと)がああ言ってくれなかったら、氷華(ひょうか)はビリになっていたかも知れなかった。 元々足はそこまで速くない。 必死に走ろうなんて気にはならなかった。 (みなと)は幼馴染みであり、同時に憧れだった。 だからこそ、告白されて混乱した。 昔、(みなと)が背を押してくれた。 そして(みなと)は今も、昔と変わらずに躊躇(ためら)わなかった。 変わらないのは自分だけ。 それは嫌だと氷華(ひょうか)は思った。  「私だって、やれるって証明しないと…私だけが置いていかれてるみたいじゃない…?」 ベッドから氷華(ひょうか)は起き上がる。  窓をコツコツ、と叩くが反応がないので、一階に降りて玄関から出ていた。
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