5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
『湊がアンカーなのはわかるわよ?
でもその直前が私って…。私、あまり足速くないのに…。
いっそ、速い子に変わって貰おうかな…?』
『氷華ちゃん、むしろこれはチャンスだと思わない?』
『チャンス…?』
『そう。チャンスだよ。
氷華ちゃんは、どんな風に走っても良いよ。
最終的にアンカーの俺が、一位を取ってあげる。』
湊はさらりと言った。
『は、はぁ…?無茶よ。私がもし、走る子達の中で、一番足が遅かったらどうするの?』
『関係ないよ。だって、クラスで一番足が速いのは俺だよ?
むしろ、ハンデをあげなくちゃ。』
湊は意地悪く笑った。
『私だってさすがにそこまで足が遅くないわっ、ハンデは言いすぎよっ』
『あはは、ごめんごめん。でもその調子なら、氷華ちゃんなら、きっと大丈夫だよ。』
何を根拠に、とその時は思った。
運動会の当日のリレーで氷華は結局二人に抜かれて、湊にバトンを渡した。
さすがに優勝は望み薄かと思われた中、湊はぐんぐんと一人、二人と抜いて、見事優勝を勝ち取った。
当時の事は、今でもよく覚えている。
他でもない、湊が氷華の背を押したから。
もし、湊がああ言ってくれなかったら、氷華はビリになっていたかも知れなかった。
元々足はそこまで速くない。
必死に走ろうなんて気にはならなかった。
湊は幼馴染みであり、同時に憧れだった。
だからこそ、告白されて混乱した。
昔、湊が背を押してくれた。
そして湊は今も、昔と変わらずに躊躇わなかった。
変わらないのは自分だけ。
それは嫌だと氷華は思った。
「私だって、やれるって証明しないと…私だけが置いていかれてるみたいじゃない…?」
ベッドから氷華は起き上がる。
窓をコツコツ、と叩くが反応がないので、一階に降りて玄関から出ていた。
最初のコメントを投稿しよう!