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オレとアイツは恋人ってわけでもない
ただ、身体の相性がいいだけ
ヤリたいって時のタイミングとか、都合とか…
ただ、お互い後腐れのない関係なだけ
きっと、アイツはそう思ってるだろうから、オレもそういうことにした
本当は、ずっと惹かれていたし、この関係に名前を付けたいって思っていた
でも、そんなことをして何になるんだろ?
表面上でしかない関係に意味なんてないのに…
ハリボテみたいな関係ならこのままでいい
今の関係なら、もし離れても何とも思わなくて済むから…
「千鶴はあれだけ俺と愛し合った後なのに、さっさと帰れとかツレないよね」
さっきまで散々ヤりまくってたせいで、疲れて一刻も早く寝たいのに、アイツはズボンだけ履いてベランダで煙草を吸いながら文句を言っている
元々色素が薄かったから、ブリーチしたら綺麗な白金になった髪を無造作に流していてる
まだ肌寒い季節なのに、オレが部屋ん中で煙草を吸われるのが嫌だって言ってるから、わざわざベランダに出て、煙草の煙が風に流れていくのが見える
そんな彼をこっそり覗き見すると、無意識にしがみ付いたせいで、引っ掻いて出来た傷が背中にあるのがわかり、さっきまでの行為を思い出してしまってなんとなくバツが悪い…
「うるせぇー、さみぃーんだからベランダの窓閉めろよ
ってか、ヤったんだからさっさと帰れー」
使用済みのコンドームやらティッシュやらがベッド横のゴミ箱に大量に捨てられており、どれだけやったのか考えたくもない
疲れて服を着る気力もないせいで、シーツに包まって暖をとりながらベッドに転がり、アイツを見ないように文句だけを口にする
何度もイッたせいで、体力ももう限界で…今にも寝落ちしてしまいたい
瞼が重くて目を開けているのが辛くて、うつらうつらとしてしまう
「はいはい。ちぃちゃんはもうおねむでちゅねぇ~」
煙草の火を揉み消し、持ってきていた携帯灰皿に吸い殻を捨て、カラカラと軽い音を立てながらベランダの窓を閉めて部屋に戻ってきた
寝転がるオレの頭を猫でも撫でるみたいにもみくちゃに撫で回し、なんか満足そうに笑ってやがる
「ねぇ?泊まってっていい?」
低いのにどこか甘く聞こえる猫撫で声でお願い。してくる彼をじろっと睨み付け
「ダメ」
一言だけ文句を言い、シーツを頭から被り直して顔を見せないようにする
もう早く寝てしまいたい
このフワフワした状態で早く眠りにつきたい…
ぶつぶつ文句を言いながら、服装を正して帰る準備をしている音が聴こえる
「ちぃ…なぁ…ちぃ、おやすみ。また明日な…」
何か言いたげな様子だが、オレはもう眠くて仕方なくて、返事なんてできなかった
オレの状況をわかってるみたいに、シーツの上から優しく頭を撫でてくる
アイツに頭を撫でて貰うのは好きだ
この寝落ちしてしまう寸前に、いつも撫でてくれる手が心地良い
もっと撫でて欲しいし、もっと側に居て欲しいって、つい思ってしまう
扉が閉まり、渡したつもりのない合鍵で勝手に戸締りをする音が聞こえた
この部屋には、彼の形跡は残さない
どれだけ身体を重ねても、どれだけ側に居ても、絶対に彼の私物は置かせない
前に、「俺用のコップくらい置いといてよ」って言われたけど、彼に出すのは来客用のコップ
煙草を吸わないオレは、彼が来た時用の灰皿なんかも絶対に置かない
専用の物なんて、絶対にこの家には何一つ置いて置きたくない
付き合ってるわけでもないし…
ただ、気が合うから側に居るだけ
身体の相性がいいから、一緒に寝るだけ…
絶対に泊めないし、私物も置かせない
離れた時に、居ない人のことを思い出すのは虚しいだけだから
執着してしまったら、ポッカリ空いてしまった胸の痛みを埋めることができないから
だから、これからもアイツとの関係はこのままでいい
モテるアイツが、誰かのモノになるのなんて時間の問題だし…
もしそうなっても、オレには関係ない
友達でも、恋人でもない
セフレってわけでもない
オレたちの関係に名前なんていらない
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