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【完結】9
「ちぃ…頼むから、俺の話を聞いてくれない?
お願いだから…逃げずに聞いて欲しい」
握られた手を離してくれないせいで逃げられない
もう顔も見たくないのに…
これ以上一緒に居て、泣いてる顔なんて見られたくないのに…
こんな所で寝るんじゃなかった
大学なんて休めばよかった…
昨晩、自分がやらかしたことに耐えられず、全然寝れなかったせいで寝不足も限界で…
陽射しが気持ちいいこの場所でつい寝落ちてしまったせいだ…
今にも泣き出しそうな顔をしている海斗をリュック越しにこっそりと見る
なんでコイツが泣きそうな顔してんだよ…
泣きたいのはオレの方だ
失恋したうえに、実はセフレ以下の扱いだったってわかって…
でも、海斗を好きだって気持ちも捨てれない…
ホント、ホントに…バカなのはオレの方だ…
ギュッとオレの手を握る力が強まり、はぁ…っと大きく深呼吸をした後、海斗はいきなり地面に正座をして座り、真剣な目でオレのことをジッと見詰め
「俺は渡貫海斗です。10月24日生まれ、来年からずっとバイトで働いてたアパレル会社に社員として就職が決まりました。
俺には好きな子が居ます。正直、最初は好奇心というか、真面目過ぎる顔が慌てるのを見たいだけでした。快楽に弱い癖に強情だし、真面目っぽいのにどこかヌケてるし、口では文句言ってても俺の好きなモノ作ってくれるし。こんなの、好きにならない方がおかしいと思わない?」
クシャッと笑う顔が、真剣にオレだけ見つめてくる目が語ってくる
「好きです。俺は安西千鶴のコトが大好きです。他の奴にお前を取られるのなんて嫌だ。俺のこと、好きになって欲しい
うわ言でちぃに『好き』って言って貰えた時の俺の気持ちわかる?
ホントに、本当に、嬉しかった」
海斗の声が、海斗の顔が、繋がれた手が、全部が全部、オレのことを好きだって伝えてくる
心臓がバクバクして破裂しそうだ
海斗の告白が信じられない
自分が、今どんな顔をしているのかわからない
持っていたリュックが手から滑り落ちて、中に入っていた筆記用具が地面に散らばる
拾わなきゃって思うのに、頭は海斗のことでいっぱいで…
「む、無理…」
恥ずかし過ぎて、口元を手で隠しながら顔を背けてしまう
口から心臓が飛び出して来るんじゃないかってくらい、ドキドキして胸が痛い
「無理なら、ずっと待つから。好きになって貰えるように努力する。ちぃの側に居たい。千鶴を誰にも渡したくない」
少し寂しそうな声と、手を握ってくる力が強まるのを感じる
信じても、いいんだろうか…
冗談とか、罰ゲームじゃないんだろうか…
海斗が、オレのことを好きだって
だって…オレと海斗の関係は…
「ちぃ…ちぃ以外の恋人はいないよ。俺の恋人は千鶴だけだよ」
海斗の言葉を聞く度に胸がギュウっと締め付けられる
さっきから喉が渇いたみたいに張り付いて声が出ない
この気持ちを伝えていいのか怖くて仕方ない
「…今晩、泊まってくれるなら考える。朝まで一緒に居て、オレの部屋にお前のマグカップ置いてくれるなら…
ずっと、一緒に居てくれるなら、考える…」
言いながら声が震えてしまう
ずっと怖くて言えなかった願い
本当はずっと思っていた
夜、何度も身体を重ねていたはずなのに、朝、目が覚めた時に一人でベッドに居るのが寂しかった
一人の時、海斗を思い出すアイテムが欲しかった
他の人と楽しく喋る姿が羨ましかった
素直に気持ちを伝えられる彼女たちが恨めしかった
「泊まってもいいの?」
オレの顔を覗き込むように立ち上がり、ゴツめのシルバーの指輪を嵌めた指の背で、優しく涙を拭ってくれる
海斗の不安そうだけど期待のこもった声が聞き返してきて、そっとオレの頬を包むように手が添えられ
「他には?千鶴のして欲しいこと、なんでも言って?」
ズルいな…
ずっと好きだった奴にこんなこと言われたら、素直になるしかないだろ…
「キス、して欲しい…」
触れるだけのキスが、徐々に深くなって、オレが上顎を舐められるのが好きなのもバレてる
息が上がるくらいキスをしたのに、改めて目が合うと恥ずかしくて仕方ない
「お前があんな告白してくるなんて思わなかった…正座だし、なんか自己紹介っぽいし…」
恥ずかしくてつい目を背けながら文句を言うと、クシャッと子ども見たいに笑い
「仕方ないだろ?ずっと付き合ってるって思ってたのに、セフレ以下のオナホ扱いとか誤解されて焦ってたんだから…
初めて出来た本気の相手に、改めて愛の告白するなんて思ってもなかったんだよ。俺だって必死だったんだ」
ギュッと抱き締めてくる彼の胸が、オレと同じくらいドキドキしていて、なんか照れ臭い
「ちぃ、このまま泊まりに行ってい?朝までずっと一緒に居たい」
コツンと合わせられた額が熱い
緑の混じった綺麗な目がオレだけを見つめてくれてる
「ちぃ、ちゃんと恋人になろ?大切にするから。千鶴だけをずっと愛してるから、千鶴の恋人に俺を選んで」
オレたちの関係には名前なんてなくて
でも、これからはあってもいいかも…『恋人』っていう関係なら、悪くないと思う
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