1. 想い出

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1. 想い出

私は当時、中谷小学校に通っていた。 名前は、岡松萌寧。 今日が春休み最終日とあって、懐かしい想い出に浸っている。 あの頃(小学生)の私は、恋愛には物凄く疎い。いわゆる鈍感だった。 でも、友達や先輩方は、毎日のように恋愛話で盛り上がっている。 私には、到底理解が出来なかった。何が楽しいのだろう⋯? ドキドキやキュンキュンなんて、人の感情の中に本当に存在するのだろうか?と言う恋に対する疑いの疑問を抱くようにまでなっていた。 そんなある日、転入生が私のクラスである五年二組にやって来た。すらっとした背に少し長い髪で眼鏡をかけていて、いかにも真面目くんの様。 「初めまして。池谷小学校から来ました、大迫真琴です。よろしくお願いします。」 柔らかい口調で、仲良くなれそうなフワフワな雰囲気をしていて安心した。 「真琴さんは萌寧さんの前に座ってください。何か分からないことがあったら周りの人が教えてあげてあげてくださいね。」 「「はーい。」」 先生の話が終わると、タイミングよく真琴君が席に着いた。 そして、私の方に体を向けると 「萌寧さん、よろしくね。」 と言ってくれた。声を掛けるか迷っていた私にとって絶好のチャンスだった。 「うん、こちらこそよろしくね。」 と、握手をした。 転入生が近くの席になる機会はそう多くないからとても嬉しかったのを今でも覚えている。 授業が始まり、難しい問題との戦いが始まった。私は、一応学年では上位に入っている。でも、分からないものにはとても苦戦する。だからといって人に頼るのはあまり好きではない。 そんな時、数学で図形面積の解き方が分からなくて頭を抱えていると、真琴君が声を掛けてくれた。 「そこの問題、萌寧ちゃん分かりそう?」 ちょうど困っていたので、首を横に振った。 普段は教えてもらったりしないのに何故だろう?と言う疑問を胸の隅に置いたまま教えてもらうことにした。 「ここはね、前習った応用で、底辺8cmと高さ6cmを割る2するとここの面積が出るよ〜。」 「あっ、なるほど!とっても分かりやすいよ、ありがとう。」 「どういたしまして。」 これをきっかけに、私達は距離が縮まった。 勉強を教え合ったりだけではなくて、休み時間に好きな本の話やアニメの話をしたり、趣味の話をしたりと充実した学校生活を送っていた。 でも、楽しい日々は一瞬にして消えていった。 ある日の帰宅後、いきなり私の転校が決まってしまったのだ。父が学校の教師をしていて移動する事になったらしい。 とても、悲しくて部屋の隅で涙を流した。 何の話もなく突然決めるなんて⋯。そんな時に思い出したのは真琴君の顔だった。 「どうして、こんな時に…。」 真琴君と過ごした日々を思い出すと辛くなって涙が止まらなかった。 次の日、私は登校し先生に転校の報告をした。そして、今日挨拶をクラスメイトへする事になった。 「皆さん、静かにしてください。萌寧さんから大事な話があります。」 先生と顔を見合わせこくりと頷く。 「私は、父の転勤により転校する事になりました。皆さんとお別れするのは悲しいですが、今日までよろしくお願いします。」 シーンと静まり返った教室に、パチパチパチと拍手が響き渡る。私は、少しほっとして席に戻った。 この事を初めて知った真琴君が、私をじーっと見ていた。 「なんで、転校しちゃうんだよ…。 もっと萌寧ちゃんと一緒に居たかったのになぁ…。」 と、真剣な眼差しを向けて私に言った。 その言葉に、キュンと胸が音を立てた気がした。 「私もだよ、真琴君。もっと、お話したかった…。」 落ち込んでいると、真琴君が気を取り直すように頭をポンポンと撫でてくれた。 「残念だけど、またどこかで会えるよ⋯きっと。 僕が保証するから、ね?」 ニコッと太陽のようで華奢な笑顔を私に見せてくれた。まるで、憂鬱さを吹っ飛ばしてしまうような笑顔を⋯。 「うん、真琴君の言う通りだね。」 (かっこいい⋯。) 胸の内でそんな事を思っていた。 この事を、親友の桃花に相談した事を覚えている。 「桃花。私ね、転入生の真琴君と仲良くなったの。それで、これからもずっと一緒に居られると思ってたのに⋯私、転校する事になっちゃって。」 「なるほど⋯。」 「うん。それでね、頭をポンポンされた時と笑顔を見た時に胸のこの当たりがドキッてしたの。これって、なんだと思う?」 桃花は、話を聞いて頬を赤く染めていた。 「それはね、多分恋だよ! 真琴君に萌寧は恋をしてるんだよ。」 恋⋯。 「私が恋⋯?をしたの初めてなんだ⋯。」 「じゃあ、初恋だね!」 「これが、初恋⋯⋯なんだね。」 「うん!おめでとう、萌寧。」 「ありがと⋯!」 初めての気持ちを教えてくれた真琴君。お別れするのは心苦しいけど、さようならは言わないよ。 私は、悲しみにさよならを告げ家に帰って引越しの準備をした。 思い出の沢山詰まったアルバムや写真立て一つ一つに懐かしさを感じながらダンボールへとしまっていたのを覚えている。 ─だって、また会える日が来ると信じていたから。
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