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5. 真琴の過去
私は、今日こそ真琴君にあの(大迫)真琴君なのかを確かめようと決意した。
いつ聞くか、ずーっとタイミングを見計らっていた。ようやく、チャンスが来た。
それは、放課後の図書委員会だ。その時は基本、2人きりだから聞きやすいと思った。
「じゃあ、早速本並べはじめようか。」
「そうだね、こっち側少し手伝って貰ってもいいかな?」
「いいよー。」
ついに、勇気を出して聞く事にした。
「あ、あのさ。真琴君って、もしかしてなんだけど大迫真琴君なの⋯?」
「⋯⋯⋯。」
「あっ、答えたくないなら別に無理にとは言わないよ!」
「⋯。
ううん、いずれは言わないといけないと思っていた事だから。
作業をしながら、聞いてくれるか?」
「うん、聞かせて…。」
すると、真琴君は少し表情を曇らせていた。
「俺は⋯元々大迫真琴だったらしいんだ。でも、その時の記憶が残っていない。
理由は、何か俺の中で全ての事から逃げたくなるような事があって、山奥にまで走ってたら足を滑らせて頭を石で強打したみたいなんだ。それで記憶喪失に⋯。
その、何故俺があんな山奥に走って行っていたのかはまだ思い出せないんだ。
でも、萌寧の事は家に置いてあったアルバムを見せてもらいながら、お母さんに教えてもらったんだ⋯。」
「そうだったんだ⋯。
でも⋯。なんで火龍真琴になったの?」
「それは、俺が記憶喪失になって何も分からない状況で不安だった時に、お母さんが俺の為に、再婚をしてお父さんが出来たんだ。その人の苗字が火龍だったからなんだ。」
「なるほど⋯そうだったんだ。質問ばかりでごめんね⋯。」
「いや、全然いいよ。俺の方こそごめんなさい。君との大切な思い出を思い出せなくて⋯。」
「そ、そんな。謝らなくていいよ⋯。」
おもわず、涙がこぼれてしまった。
「私は⋯何も知らずにっ、ごめんなさい⋯。」
「もう、いいから、ね。顔を上げてよ…。」
「う⋯ん。」
(過去を思い出せない苦しさとその時にあった辛さは計り知れない。記憶喪失でも⋯それでも私は真琴君が好きだよ⋯大好き。)
作業の手を再び動かしながら、心の中で囁いた。
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俺は、記憶を失い心が空っぽになっていた。
病院で目が覚めた時、お母さんの事を誰か分かっていなかった。
「ここは⋯どこ?お姉さん、だれ⋯?」
「うっ、私はねお母さんだよ⋯。」
明るく笑っているけれど、その時のお母さんの頬には涙が伝っていたのをうっすらと覚えている。
お母さんと会えてお父さんも出来て安心した。
でも、何かが違った⋯。
ずっと、心の中にあった大事な記憶がない事がこんなにも恐ろしいなんて思ってもみなかった。
でも、高校に入って萌寧を見つけてから心の歯車がようやく動き出したような気がした。
心にぽっかりと空いた穴が、萌寧と一緒にいる事で満たされていく。
そんな気がしたんだ。
過去の俺(大迫真琴)と今の俺(火龍真琴)は、萌寧から見ても違うと思う。
(でも、萌寧には今の俺を受け止めてほしいし、見ていて欲しい。)
と、萌寧に話した後からずっと思っていた。
ーこんな気持ち、欲張りなのか?
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