6. 高まる想い

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6. 高まる想い

私は、真琴君の過去を知った今だからこそ、近くで支えてあげたいという気持ちでいた。 あの頃の真琴君とは確かに違う。(大迫)真琴君の無邪気なあの時の笑顔をもう見ることは出来ないかもしれない。 でも、今の(火龍)真琴君の包み込んでくれるような優しい笑顔も私は好きだ。彼の苦しみを一緒に受止め、今の彼を私は、もっと知りたいし見ていたいと思った。 そして、入学式から八ヶ月が経ち、今日は十二月三日。 終業式を迎えた私は、あっという間の冬休みに驚きと安堵を覚えた。 「おはよう、真琴君。」 「おはよ!萌寧。」 「冬休みだー、楽しみだね。」 「あぁ、そうだな! そういえば萌寧、クリスマスイブって何か用事ある?」 「ううん、特にはないよー。」 「じゃあさ、一緒にお出かけしない?」 「うん!でも、私なんかでいいの?」 「うん、萌寧じゃないとダメなんだ。」 (⋯嬉しい、でも素で照れることなく言えるのがちょっとずるいよ。) 「ありがとう、楽しもうね。」 照れ隠しに、そっと微笑んだ。 「もちろん!」 約束をし、念の為メール交換をした。真琴君のアイコンには、サッカーをしている後ろ姿が載っていた。 おそらく、あの頃の写真だろう。ぼーっと眺めていると、なぜか鼓動がドクドクと早くなっていた。 (あー、やっぱり真琴君の事が好きなんだなぁ。) と、改めて自分に気づかされた。 終業式も終わり、あれから2週間が経過していた頃、真琴君からメッセージが届いていた。 「こんにちは。久しぶり。 元気に、この冬休みを満喫出来てる? この間のクリスマスイブの件なんだけど、 俺に全て任せて、萌寧をエスコートさせてくれないかな?」 返信に私は、 「いいよ!でも任せっきりになっちゃっていいのかな?」 と送った。すると、何分か経った頃に 「全然いいよ、任せて!」 「ありがと、じゃあお願い!」 男子にエスコートをしてもらうのが初めてな私は、期待と少し不安だった。 でも、真琴君とお出かけか〜、楽しみだよ! さらに、1週間が過ぎて今日は十二月二十四日。 クリスマスイブ当日。 私は、母に頼みオシャレな格好にしてもらった。 自信はあまりないけれど、真琴君に少しでも意識してもらいたいと言う一心で頑張ったつもりだ。 でも念の為に、鏡の前で髪型チェックをしてから、 「行ってきます!」 と言って、家を出た。 母には、いつも頼りっきりになっていて本当に申し訳ない。「ありがとう!」とは言うけれど、何も恩返しができていないのだ。 だから、いつか将来の夢である児童福祉司になって母に恩返しをしたいと思っている。 そんな事を考えていたら、あっという間に待ち合わせ場所の時計塔前へ到着した。 緊張のあまり、心拍数が上がっていく。 (おさまってー、私の心臓!) そう思っていると、待ち合わせ時間である十二時になった。 「おまたせー、待った?」 私の前に走って駆け寄ってくる真琴君の姿にドクンと胸が鳴った。 「ううん、今来たところだよー。」 「じゃあ、行こっか。エスコートします⋯。 お姫様っ!」 そう言うと、手を差し伸べてくれた。私はその手を取り、 「よろしくお願いします、王子様っ!」 と、照れながら言った。 すると、真琴君の顔がキラキラした笑顔になっていた。 そして、初めに向かったのは腹ごしらえだ。 「そこの屋台で、何か食べない?」 「いいね!食べよー!」 トルネードポテトや綿あめ、ラムネなど沢山の出店が並んでいた。 私は、綿あめと焼きそばを真琴君は、唐揚げとトルネードポテト、りんご飴を買って座る場所を探し、真琴君が持ってきてくれたブルーシートを芝生の上に敷いて、食べた。 冬の星空の下、かなり寒いけれど楽しい。初雪降ってくれたらいいのにな〜、なんてね! 「唐揚げ、美味し!萌寧、食べない?」 「いいの?食べたい!」 すると、真琴君が「はい、あーん。」ってしてきた。恥ずかしかったけれど、口を開けて唐揚げを 真琴君に食べさせて貰った。 (ほんとに、贅沢すぎるよー!) 「美味しい!!真琴君、良かったら焼きそば食べる?」 貰ってばかりは悪いからと思い聞くと、「やった、嬉しい!」と微笑んでくれた。 私もさっきのをやり返すように「はい、あーん。」って言いながら食べさせた。すると、 「めっちゃ、うまい!ありがとな萌寧。」 そう言ってくれた。 次に向かったのは、イルミネーション。 山ヶ岬海浜公園の近くにある、ごく一部の人しか知らない極秘スポットらしくて、入り組んだ道を抜けた先に綺麗な景色が広がっているとされる何とかスポットというので有名らしい。 「今から、山を登るけど大丈夫そう?」 「うん、体力には自信があるから!」 「じゃ、行こうか。」 夜の暗い山道を少し登り、右に曲がると古ぼけた扉がなぜか立っていた。 「これって⋯、何で立ってるの?」 「なんかね、この空間には結界が張り巡らされているらしくて火龍の名を持つものしか入れないんだ。だから、誰一人としてここを見つけたことがないんだ。見えないから。」 「え、でも私、見えてるよ⋯?」 「何で見えてるんだ。じゃあ、スコープを着ける意味はなかったみたいだね。ひとまず、中に入ろっか、許可は得てるから。」 「うん、ありがとう!」 そうして、真琴君が扉を開くと中から眩い光が指してきた。 「こっ、ここは⋯?」 「着いたよ、萌寧。 ようこそ、火龍イルミネーションへ。」 「火龍って、真琴君の?」 「そうだよ。」 もしかして、あの火龍株式会社の⋯。社長さん息子! 「私なんかが、本当に入ってもいいの?」 「うん、じゃあ行くよ!」 そう言って、私の手を引っ張った。 「うん!」 真琴君と一緒に足を踏み込むと中にはライトアップされた木々や色々なドームをライトで包み込んで飾り付けてあった。 「わぁ〜、綺麗だね!!」 見とれていると、 「そうだね、萌寧を連れてこれて良かったよ。」 「ありがとう、来れてよかった! あの⋯良かったら一緒に写真撮って貰えないかな?」 「俺でいいの?そういうのって、好きな人と撮りたいもんじゃないのかなって⋯。」 「私、真琴君だから一緒に撮りたい!だから、お願い。」 (恥ずかしい⋯でも、私の気持ち少しは気づいてくれたかな?) 「わ、分かった。どこで撮る?」 真琴君は手で顔を覆うようにして、聞いてくれた。 「じゃあ、あのハートドームのところで!」 (少し、張り切り過ぎたかな⋯?) 「分かった、行こう。」 そして、2人で場所を取ってポーズを考える。 「「せっかくなら、ハートはどう?」」 まさかのハモった! 「「ハハッ、ハハハハッ。」」 どうしてか、おかしくなっちゃって笑いあった。 「よし、撮るよ!」 真琴君は、気合を入れて 「はいっ、ポーズ」 そう言った。 ニコッと微笑みながら、ハートを手で作りパシャリと撮った。 2人とも笑顔で撮れていた。 「ありがとう、大切にするね!」 「うん、その写真後で、俺にもメールで送って欲しい。」 「分かった。ちなみに、この後はどうするの?」 「うん、今から俺に付いてきて欲しい。何も言わずに⋯。」 「分かった。」 そう言って、隣を歩く。どうしてか、今真琴君と手を繋ぎたくなった。 そっと、真琴君の手に触れる。すると、彼は触れた私の手を受け止め握った。 かじかんでいた手に、優しい温もりが伝わる。 ドキッドキッ 心臓の音がうるさいほど、聞こえる。 「もう少しで着くから。」 「うん。」 十分ほど手を繋いだまま、歩いた。すると、大きな家に着いた。 「ここは⋯?」 「着いたよ、ここが俺の家だよ。」 (え、家!) 「おっきいね!私の家の三倍くらいはあると思う。」 「そうなんだ、でもいきなりごめん。家まで連れてきちゃって⋯。」 「なにか、理由があるんだよね?だから、大丈夫だよ。」 そう言うと、ほっとした表情を見せた真琴君が 「どうしても、見て言って欲しいものがあるんだ⋯だから、俺の部屋まで来てくれないかな?」 「うん、分かった。」 まだ、手を繋いだまま、真琴君の部屋へと向かった。 「わぁ、広いね。しかも整頓されてる!」 「そんな事ないよ、さぁ好きなところに座って。」 (緊張するなぁ〜。) 「あ、ありがとう!」 私は、出来るだけ端の方に腰を下ろした。 「俺、飲み物持ってくるよ。アイスティーと緑茶、ハーブティーとかがあるけど、何がいい?」 (やっぱり、オシャレな飲み物ばかりなんだ。しかも、私の好きなのが多い。) 「うーん、アイスティーでお願い。」 「分かった、ちょっと待っててね!」 「うん、ありがと。」 真琴君がキッチンに向かっている間、私は部屋を見回してみた。 (あ、あれってアルバムだ…。真琴君が来たら、見せてもらいたいな。 それに、あそこに掛けてあるの⋯二人で最後に埋めたタイムカプセルの宝箱の鍵。やっぱり、まだ思い出せてなかったんだね。大切な事を書いてあるんだー。) 色々と考えているうちに、真琴君が飲み物を持って戻ってきた。 「おまたせー。はい、アイスティー。」 「美味しそー、ありがとう!」 「うん。一応、寒いから丁度いい温度に温めてみたんだ。」 「そうだったんだ、ありがとう!飲みやすいよ。」 「そう言って貰えて何よりだよ。」 イルミネーションの話や学校の話を少しした後に、 「萌寧。俺、君に聞いて欲しいことがあるんだ。だから、聞いてくれる?」 いきなりで、少し動揺したけれど 「うん、いいよ。」 と、答えた。 「ありがと。それじゃあ、今から少しギターで弾き語りするね。」 「うん!楽しみ!」 すると、ギターのピックで カン・カン・カン 『君に初めて出会った時 一瞬にして恋に落ちてしまった いつもそばで君を見ていたくて…でもそんな時に君は去ってしまったんだ でもね、またいつか会えると互いに信じあったあの日 辛くてめげそうになっても僕達の絆はずっと切れることなく繋がってるんだ そう信じている あの頃の僕達はいつも一緒で 楽しい日々を過ごして笑いあったね ララー、ララー、ララー、 再開した時 僕の胸ではうっすらとしか思い出せなくって辛いことばかりだった… けど君に会ってから僕の時間は動き出したんだ もう一回君に恋をしてもいいですか? 君の笑った顔がまた見たくて そばに居たくて… あの初恋をもう一度だけやり直しませんか? あーあー 君の事が好きで 溢れるこの想いを 一体どうしたらいいの? もう離れたくなくて でもやっぱり言えなくて それでもいつかは君に届くと信じ 今を歌う つまり僕は 君ともう一度 恋をしたいんだ』 私は、思わず涙を流してしまった。 「す、すっごいよ…真琴君! この歌って、もしかして真琴君が作ったの?」 涙を拭いながら私は聞いた。 「そうだよ、俺の将来の夢はシンガーソングライターになる事なんだ。」 「そうなんだ!凄いよ!」 「この歌、好きな人の為に作ったんだ。だから、すごく思い入れのある歌なんだ!」 (好きな⋯人。真琴君の好きな人って誰なのかな?) 「ねぇ、真琴君の好きな人って誰なの⋯?」 真琴君の顔がみるみる動揺していく。 「その⋯えっと。もしかしてなんだけど分からなかった?」 (そんなの分かるわけないよ⋯。その人との想い出を描いているんだから⋯。) 「うん、分かんないよ⋯。」 「じゃあ、これを機に言うからよく聞いて。」 真剣な眼差しに私が映っている。 「う、うん。」 「俺は、あの頃君に出会った時、一目惚れをしたんだ。いつもクールで可愛くて、それだけじゃなくて一生懸命な所を好きになったんだと思う。 でも、記憶喪失になってからというもの心の真ん中に何かが足りない気がしていて、アルバムを我武者羅に探し出して見たんだ。すると、萌寧の笑っている写真を見た時なぜか涙が出て、胸が苦しくなった。 その痛みを抱えたまま、高校に入学してまた君と出会えた。もしかしたらあの写真の⋯って思い始めた時に嬉しくなって、心が満たされていくようだったんだ。 それから、君の笑顔が好きで隣を歩きたくて、ずっとアピールをして振り向いて貰おうとした。 つまり、俺はもう一度あの時の初恋を君とやり直したいんだ。だから、好きです。俺と付き合ってくれませんか?」 そう言って、真琴君は右手を差し出して私を見つめていた。 (わ、私の事⋯好きって言ってくれたの?え、夢を見ているのかな?) 「ほ、本当に私なんかでいいの!? だって、可愛くもないし真琴君にいつも迷惑をかけちゃってるのに⋯。」 「俺は、萌寧。君じゃないと駄目なんだ!! それに、萌寧は可愛いしむしろ俺の方が迷惑をかけてるくらいなんだから。」 (真琴君⋯⋯。) 「真琴君、私の方こそあなたの事が好きです。よろしくお願いします!」 私は、涙を流しながら手を握った。 すると、真琴君は、無邪気な笑顔で嬉し涙を流していた。 「やったー、嬉しい!ありがとう、萌寧。 絶対、絶対に大切にするから!」 「うん、私も!!」 嬉しさで高揚している私達は、めいいっぱい抱きしめ合った。 (暖かいなぁ〜。) 真琴君の体温をしばらくの間、感じていた。 ˚✩∗*゚⋆。˚✩☪︎⋆。˚✩˚✩∗*゚⋆。˚✩⋆。˚✩ 気が付くと、私は真琴君の部屋のベッドで眠っていて、慌てて時計を見ると夜の八時を回っていた。 「う〜ん、おはよぉ。まことくん、そろそろ帰らなきゃだよー。」 真琴君は、寝ずに本を読んでいたらしい。 「あ、目が覚めたんだ。おはよう萌寧! 夜は暗くて危ないから、家まで送るよ。」 「ありがとう。お願いね。」 そして、二人とも準備を済ませ外へと出る。 「お邪魔しました。」 一礼をして真琴君の家を出た。すると、タイミング良く真琴君のお父さんが車から降りて帰って来た。 「真琴、その人は⋯。」 「あ、紹介するよ。この人は俺の彼女で岡松萌寧だよ。こっちは、俺の父さん。」 「あの、こんばんは。岡松萌寧です。よろしくお願いします。」 ー少し、緊張しつつも私は挨拶をしたのだった。
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