1-fool

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「そこ、桜の木。毛虫要注意だよ。」 「あっ、ああーーう、うん」   (刺されたら危ない毛虫と分かってて、取ってくれたのかーー…?しかも、素手で。 ーーなんて、思いやりのある……。 まるで忠犬ハチ公じゃないか……) その時、サアッーーと風が吹いた。 桜の花びらが舞い散り、二人の前に薄紅色のライスシャワーのように降り注いだ。 すぐ近く、真正面で。 真ん丸で大きな透き通った瞳をくりっとさせて佇む千羽の姿ーー…。 可愛らしい、きょとんとした表情。 (な、なんてことだーーー……) 名取場の視界は、その瞬間、一気にピンク一色に染まった。 (尊いーーーーー…) 「あ、あの…大丈夫? 口開いてるよ?……毛虫、怖かった?」 「ーーえっ、あ………い、いや、 ち、千羽………くん。 俺の名前は…なと…」 名乗ってお近づきになろうと考えたその時。 「千ぃぃ〜〜〜羽ぁぁぁ〜〜! おまえー!なに、そこらへん水浸しにしてんだぁーー!?」 「あ!やばい!園芸部の先生きたっ!! いや、そもそもおれ園芸部じゃないのに…!? あっごめん!あの、たすけてくれてありがとう! そ、それじゃ!」 「あっ………」 それだけ言い残し千羽はホースを抱えて素早く水道栓の近くに戻し、ダッシュで去って行った。 「………千羽……若也……」 先程教えてもらった名前をフルネームで口にする。 ーードッキドッキドッキドッキ   高鳴る鼓動。 まるで何かが詰まったような胸の苦しさ。 止まらないときめきに頬を染めて、名取場は確信する。 (好きだーーー……千羽くんーーー) 初対面にして、完全なる一目惚れだった。
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