22人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「あ、あのーー…もし。もし良ければだけど。
千羽くん、あの、勉強会、しない?」
「………勉強会?」
「うん、明日からテスト期間中で部活動も休みになるだろ?
ここの自習室、前もって言っておけば使っていいはずだから……その、ここで、俺と…。」
相当迷った挙句、大胆な誘いに出た名取場。
(ピンチはチャンス‼︎これなら千羽くんと繋がれるかもしれない‼︎突然の思いつきだけどよく言った、俺ーー……
この機を逃してたまるか……!)
そう心で声を張りながら少しギラついた目をする名取場を、千羽は不思議そうに見つめる。
「俺は、いいけど…。
でもそれ、名取場………いいの?」
バカで有名らしい自分なんかと勉強会をしていったい何の得が……?謎しか生まれない。
ーー俺なんかと勉強会したって、かえって成績落ちるかもしれないけど、いいの??
そんな顔で見つめる。
「あっ、いやぁ…千羽くん、さっき俺が教えた時、公式の解き方ちゃんと聞いてくれて……その、なんていうか、楽しかったからさ。
俺も復習になって、勉強になるし。テストに向けて対策とか話し合えるかなーって。
ーーー二人で赤点脱出しないか?」
『二人で。』
ーーー千羽くん、きみと、俺の、ふたりで、二人で、2人でぇえええぇぇーーーー……
自分の発した言葉に、エコーエフェクトが掛かりながら、頭の中をこだまする。
頬を赤らめつつも千羽の顔を見つめる瞳を逸らさない名取場。
「ーーー…うん、じゃあ、えぇっと、よ、よろしくお願いします。
……名取場、先生?」
ーーーズキュウウウン!
突然打ち込まれた右ストレートに一発K.O.状態になりそうだったが、右足を床にグッと踏み込みなんとか踏ん張る。
「あ、ああ、うん、いやはい!
こちらこそ何とぞよろしくお願い致します…。
……あっ、いや先生はやめてよ?普通でいいよ。な、なんだかちょっとその呼び方は身体に悪いというか…普通に呼んで欲しいな。」
(心臓に悪すぎるからーー…)
「あはは、なにそれ?名取場って、見た目と違ってほんと面白いね。
じゃっ、俺そろそろ帰るから…いろいろありがと。
勉強会、楽しみにしてる!じゃあなー!」
ーーガララッ、バタン!
千羽は満面の笑顔でそう言い放ち、颯爽と自習室を退室した。
(ふぅ、ふぅ、…危ない。も、もう少し耐性をつけないと…
このままじゃあ俺、千羽くんと密室にいるだけでももうどうなるかわかったもんじゃない…)
会話してるだけでこんなにもメロメロだというのに。
これから始まる、二人だけの勉強会ーーー…自分から誘っておいて、とてつもなく不安になってしまう。
果たしてどこまで平常心でいられるだろうかーーー…?
これから先が楽しみすぎて、こんなにも、自分のことが怖くなるなんて。
「不安だよ、千羽くんーーー…」
名取場は1人呟いて、机の上の自分のノートに書き込まれた千羽の自信なさげな小さな文字をじっくりと見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!