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「………」
千羽は黙ったまま、通学カバンを肩にかける。
「何回も言ったけど……おれ、部活なんてやってる暇ないんだって……。
蓮はいいよな。頭いいじゃん?テスト期間にちょこっとだけ勉強すれば、全部平均以上の点取れるんだろ?
俺なんてーー…どれだけ頑張ったって赤点免れるだけでいっぱいいっぱいなのにさぁ……」
バドミントン部の練習に精を出しつつ、勉強だってそつなくこなすことのできる幼なじみの蓮のことをどれだけ羨ましく思ったことか。
「そんなの、俺だって別に大したことないよ。
テストなんて……ヤバすぎないレベルの点だけ目指してヤマ考えるだけじゃん?」
(そのヤバすぎないレベルの点を取れないヤバい頭だから困ってるんだけど………。)
どれだけ熱心に授業を聞いても、教科書と睨めっこしても、気付けば頭の中には???しか浮かんでいないのだ。
その状態でテストのヤマかけなんて無理に決まっている。
まずそもそもテスト範囲の把握ですら危うい。
バカな自分が情けないと同時に、なんとなくだけどわかっている。
地頭の良さだけは、どう足掻いたって変わることはないということが。
それなら結局のところ、努力あるのみで。
おバカな自分がテスト勉強そっちのけで部活に精を出すことなんて、許されるはずもない。
「そんな、気にしすぎだって。
あっ、それにさぁ!バド部でいい成績出せば先生達からの評価も上がるぜ?
ーー若なら、少なくとも保健体育はMAX貰えるよ。下手したら有名人になれるかも⁉︎」
蓮はどうにか口説き落とそうと、体育館を出ようとする千羽について歩く。
「いや、おれもう既に有名らしいから……いいよ……」
「えっ?」
………バカで有名、とボソッと呟き、
そしてずん…と俯く。
「な〜〜あ!わぁ〜かぁ〜〜。
最近付き合い悪いぜぇ?遊ぼうよ、今から…は俺部活だから…あっそうだ。明日!」
「?」
蓮は思いついたように千羽の前に立ち塞がる。
「な、明日放課後スポッミャ行かね⁉︎
俺無料チケットのアプリクーポン当たったんだ!期限明日まで!」
「えっ‼︎行くっ‼︎」
(よっしゃ、食いついた!若スポーツ系のレジャー施設大好きだもんな!)
目をキラキラさせて振り向いた千羽の顔は、オヤツジャーキーを目の前に歓喜の表情で舌を出す小型犬そのもの……
……だったが、あることを思い出しハッとする。
「…あっ‼︎ーーーあ、あした?
あーー明日は……ダメだ…。ごめん蓮…」
「えっ?何かあんの?」
「あーー……うんその、それが…。」
残念そうな顔をしたかと思いきや、すぐにえへへ、と謎の照れ笑いをする千羽に、蓮は「え?なに?」と不思議そうに見つめる。
「いやぁ、実は…明日から自習室で勉強会してもらえることになったんだ。
俺の苦手な数学教えてくれるって…………名取場が。」
「…………名取場?」
千羽の呼んだ名前に、蓮は怪訝な顔をする。
「名取場……?
名取場って確か……。
すらっとした黒髪の……地味メガネ?」
「うん。あれ?蓮、名取場のこと知ってるの?」
(地味メガネってひどい言い方だなぁ…あ、いや、まあ間違っても無いのか…。)
「あー…うん、同じクラスだよ。あの頭良さげなやつだろ?
話したこと多分無いけどなぁ、ちょっと変わった名字だからなんか印象に…。それに確か、あいつこの前……って、なんでそいつと若が勉強会?」
千羽はまたも「えへへ」と照れ臭そうにして、耳の横をポリポリと掻く。
「今日ついさっき…数学の補習一緒に出てたんだけど。名取場ってさ、ほんっとすごいんだよ!
俺が意味不明だったあのxとyとaとか出るあの、えっと一次?いや、にじ?さんじ…関数?
まあそれの解き方をめちゃくちゃ分かりやすく教えてくれて!……あれ?そういえばどうやって解くんだっけ?あっやばい…せっかく教えてもらったのにもう忘れたかも……!」
「え……数学の補習?名取場が?
ーーーいや、あいつって確か……」
慌てふためく千羽に蓮の声は全く届かない。
「あわわわやばい‼︎ごめん蓮っ!そういうことだから俺明日からしばらく忙しいから!せっかく誘ってくれたけどごめんな!
俺、ちょっと急いで帰って復習する!じゃーな、おつかれーっ!」
「あっ、若!ちょっと待てよ……」
千羽は振り返りもせず、バタバタとグラウンドを駆け抜けて行った。
(名取場………?あの地味メガネと、若が勉強会………?)
「いや、おかしいだろ…?」
その場に取り残された蓮はただ一人、複雑な顔をしたまま呟いた。
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