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2-fool ほろめりまりものまりめりも♪
「ただいまぁ〜〜〜っ!」
自宅に帰宅する千羽。
「あらぁ~ワカちゃんおかえりなさ~~い」
ふわふわした雰囲気で千羽に声をかけるのは、母、千羽和琴。
ファンシーなワンピースのようなエプロンを身にまとう彼女は千羽によく似た顔立ちで、どことなくあどけなさの残る雰囲気から少女らしさを感じさせる。
「お母さん、ただいま!あれっ?今日、お店は?」
「それがねぇ~。急遽キャンセルになっちゃったのよぉ。
今日のお客様のトイプードルちゃん、おなか壊しちゃったみたいでね~?」
「えぇ~。そうなんだ?かわいそうだなぁ…」
母は自宅の敷地内の離れで、犬猫専用のトリミングサロンを経営していた。
家に帰宅するとお客さんのワンちゃんがまるで我が家の飼い犬のごとく出迎えてくれる……そんな状況が動物好きの千羽にとっては日常の楽しみの一つだった。
「そうねぇ、心配ねぇ……。
ーーーあ、そういえばワカちゃん、なんだか髪伸びたわねぇ~?
………ママ切ろうか?」
「えっ??あ、いや、大丈夫!!えっと、ちゃんと美容院行くよ!」
急なキャンセルによりトリマーとしての腕がうずくのか、母はハサミを手に取ろうとし「そうぉ?」と残念そうな顔で少し伸びた息子の癖っ毛を見つめる。
「あっそうそう……ワカちゃん。これ、お客さんからいただいたの。
ほら……ワカちゃんの欲しいって言ってた……」
「あああああああーっ!!!それぇぇぇぇ‼」
母の手に乗るのは……緑色のもこもこした球体…の、ミニフィギュア。
透明のプラスチックでできた器の中に入っている。
「ほろめりまりも等身大フィギュア瓶入りver.じゃんーーー‼‼
これ、シークレットのやつぅ‼ずっと欲しかったんだぁ‼えっ‼︎いいのぉ!?」
「うふふ。そのお客さんね、ワカちゃんがこのマリモちゃん好きなこと話したら、ずっと探しててくれたみたいで。良かったわねぇ〜〜」
「超嬉しい‼‼お母さんありがとぉぉぉ‼お客さんありがとぉぉ‼
ふたりともマジ神ぃぃぃぃ‼」
大興奮で今にも部屋の中を駆けずり回りそうな千羽を見て、母はうふふ、と微笑む。大きな真ん丸の目をキラキラさせて、新しいオモチャを与えられ大興奮するようなその無邪気な表情は言うまでもなく、かの小型犬のごとく……。
「ワカちゃんには、神様がいっぱいいるわねぇ~。
欲しいものくれる人は誰でも神認定しちゃうんだから~~……。
あっ。そうそう、そういえばワカちゃんさっき従兄弟の渉くんから電話がーーー…」
そう話して振り向いた母、「あら?いない……」とつぶやく。
いつの間にやら千羽は自室へと上がっていた。
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