1-fool さぁ呪文を唱えて

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1-fool さぁ呪文を唱えて

  因数分解?二次関数?   √ってなに?? サインコサインタンジェント?? なにそれ、なんの呪文? 「そんなもん、この世にいらねぇわー!」 千羽(ちわ) 若也(わかなり)は泣きそうな顔で叫んだ。 放課後の自習室。 補習を受けるため着席している千羽は、『数Ⅰ』と書かれた教科書を睨みつけて、少し茶色がかった猫っ毛を「うああぁぁあ」と言いながらぐしゃぐしゃ掻き乱した。 「千羽ぁーー! 真面目に座っとかないかぁこのバカもん!」 数学担当の教師が、黒板に数式を書く手を止めて怒鳴る。 正直毎度毎度お決まりのこの光景に、付き合わなければならない教師の方もうんざりだ。 「だって先生!こんなの、社会に出て何に使うっていうんですかぁ!? xとかyとかaとか!“〜を求めよ”とか言われても!知らないよ! てか”求めよ”ってめっちゃ上からだよね、百歩譲って“求めましょう”だろ! まず求めることを求められても困るわっ!」 千羽がこの進学校に補欠ギリギリで入学できたことは言うまでもなかったが、こんなにも、高校普通科で学ぶべき数学の難易度が高いなんて。 そもそもは基礎ができていなかった。 完全なる文系の千羽にとって、まるでなにかの呪文が並んでいるかのような公式や方程式だらけの数学は、中学2年あたりからもうちんぷんかんぷんで。 正直言うと、もはや分数の割り算あたりから怪しい気がしてくる。 「お前が求めてなくてもなぁ、それを求めないといけないのが数学なんだよ! ……千羽、お前…今更だけどよくこの高校入れたな?」 “まさか裏口入学?”とぼそ、と呟く声に千羽は目を丸くする。 「え、なにそれ教師らしからぬ発言じゃないですか?教育委員会にチクりますよ?」 「おお〜?やってみろや? 単位やんねーからな。 ……千羽、おまえ留年決定」 「う、嘘ですぅー!! ごめんなさい神様仏様先生さま!」 期末テスト前に行われた小テストで教師が決めた、合格ライン以下の点数だった者が受けなければならない今回の補習授業。 該当者は見事1人だけだったのか…自習室には教師と千羽の二人だけ。 かと思いきや………
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