1-fool 斜め45°から愛を贈る

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1-fool 斜め45°から愛を贈る

(好きだ、千羽くん。) 教師が二次関数の値の説明を黒板に書き込み背を向けたその瞬間。 名取場の視線は斜め前、千羽の後ろ姿へと一気に集中する。 (千羽くん、今日も素敵だ。 後ろ姿可愛い。最高だ。 この斜め後ろ45°のアングル、完璧すぎる。 ここに座って正解だった。 自習室に来る前、事前にイメトレしといて良かったーーー。) 「えーーここの、y=a(x-b)²+cという式が基本となるから、よってー、aの値は0以外で……」 教師の話す声を丸々ノートに写しながら、視線はただひたすら、千羽の、授業内容をほとんど理解できていなさそうに戸惑う表情を浮かべた斜め後ろ姿へ。 黒縁眼鏡の奥から、ひたすら熱い視線を送り続ける。 (ああ、そのふわふわの髪の毛にちょっとでもいいから触れたい。 まん丸の大きな瞳で、弾ませたよく透る声で、 “なとばぁ!”とか言いながらこちらに走ってきて欲しい。 抱きかかえてわしゃわしゃしたい。 好きだ。千羽くん。小型犬みたいな千羽くん。 好き好き好きーーー) 「はい、じゃあーー…名取場。 ーーこのグラフのy座標の値は?」 「y=2(x+3)²-25です。」 突然名指しで問いを投げかけられ、すぐさま答える名取場。 「はい、正解。」 「お、おお〜〜す、すごい。え…なんでわかるの?」 千羽は目を丸くして,羨望の眼差しで後ろを振り返る。 「……………」 (しまった、簡単すぎてつい即答してしまったーー…。 ここは俺も全くわからないふりをしつつ、千羽くんへ問題を振ってもらって戸惑い慌てふためく千羽くんを見るチャンスだったのに…惜しいことを…) 「よく聞いてるじゃないか、名取場。 名取場…補習…? お前が赤点かぁ…。うーむ…」 教師が納得いかないという顔で呟く。 (こんな基礎の基礎、寝てたって解けるに決まってるだろ? ーーーこんな問題よりも、今日、この場(補習授業)に来る ことの方がよっぽど、何倍も難しくてリスキーだったんだから…)
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