1-fool 水浴びする小型犬と出会うメガネのひと

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1-fool 水浴びする小型犬と出会うメガネのひと

「そういえば名取場って、なんで、おれのこと知ってんの? ずっと“千羽くん”って呼んでるけどーー… ……おれ、自分の名前言ったっけ?」 ーーーギクゥッ!! 「え、えーっと…その、それは……まあ…」 そして、名取場の頭の中。 脳裏にあの、運命の出来事が蘇るーーー… ーーー時は遡り、約3ヶ月前。 工学部に所属する名取場は、部の先輩からあることを命じられ、校舎内からグラウンドへ続く中庭を通ろうとしていた。 (ソーラーラジコンカーを走らせても良さそうな場所ーー…。 まだ新入部員の俺に、適任の場所を探し当てることはできるだろうか……?) 「日当たりを考えるならグラウンドのサッカーゴールの後ろだがーー…あの場所は普段サッカー部と陸上部が部活動で占拠しているし…かと言ってこの中庭に近すぎると園芸部の方々のご迷惑になりかねない…どうしたものか…ブツブツ……」 難しい顔をして独り言を言いながら、花壇の広がる中庭へ差し掛かったその時。 「…………うわあぁぁーーっ! ちょっとー!だれかぁぁぁーーー!」 名取場の目に,衝撃的な光景が飛び込んできた。 『ジャアアアアアーーーッ! バシャッバシャアァァァーー!!』 目の前の彩り豊かな花が咲き誇る花壇の前。 花壇端に設置された水道栓から繋がれた延長ホースで、花々に水やりをしているらしき小柄な男子生徒の姿。 「わわわわぁ!た、助けてぇ!」 (ーーーーー……!?!?) うわぁぁ!と叫びながらーーー…そこには、なぜか、手から離れて勢いよく水を撒き散らし暴走する水道ホース。 日差しが水飛沫の粒に反射してキラキラと光り、小さな虹を作るその映像が、スローモーションのように、名取場の目に飛び込んできた。 その男子生徒の姿は…まるで楽しそうに(?)水浴びしながら愛らしく戯れている、小型犬の如くーーー…。 名取場はその姿に釘付けになっていた。 (う、美しいーーーー…) 瞬きも忘れ,足を止めてただ真っ直ぐーー…その情景を、はーーっと眺めていた。 まさに首ったけ。 「ちょっとぉ!助けてー!これどうしたら直る!?」 「ーーーーーー……えっ?」 頭の中がどこかヨーロッパのお花畑まで出かけてしまっていた名取場は我に返った。 水ホースはまるで元気な蛇のように、水道水を撒き散らしながら地面と宙の間を跳ね回る。 『ビシャアアアー!バシャッバシャー!』 「そこのメガネのひとぉー!誰か知らないけど助けてよ! うわわわぁぁ!ぶはぁ、つっ、冷たぁっ!! これどうしたら止まるのぉ!?」 「ーーーえっ…!あ、あぁ、み、水止めるの?」 名取場はすぐ近くに設置された、ホースに繋げられた水道口に近づきキュキュキュ、と蛇口レバーをまわして栓をする。 少しして、大人しくなりへたっ…となだれるホース。 「!! ーーーー…ああっ、そっかぁ〜〜、 そこ、止めればいいのか!すごいな!」 ただ水止めただけなんだけどーーー…と思いながら……地面を見ると、ホースの口先に取り付けてあったはずの、水の勢いを変える散水ノズルが無造作に転がっていた。 何かの拍子で外れてしまったらしい。 「…………ーーー大丈夫?」 名取場は水道水をたくさん浴びてしまった様子の千羽を見る。 ”大丈夫?”という言葉はいろんな意味を含んでいる。 「うん!」と返事をすると、千羽は名取場のもとまでダダダっと駆け寄る。 目の前で止まると、頭をふるふるっ!と振って茶色い癖っ毛についてしまった水の滴を振り落とした。 (い、犬みたいだーーーー……)
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