64人が本棚に入れています
本棚に追加
渋谷課長の隣の課長補佐のデスクに、新条が着いた。
まずは、西京華津世が、自信満々に、自分の持って来ていたお弁当を、新条のデスクの上に、広げた。
それは、あっと驚くような、色とりどりのおかずが並ぶ、きらびやかで豪華なお弁当だった。
西京華津世は、勝ち誇ったように、波瑠に言った。
「まあ、これ以上のお弁当なんて、ありえないわね。なんせ、あの銀座利休の料理人だった父からの直伝だもの」
波瑠は、激しく焦った。
しかし、今更、後には引けない。
波瑠は、持って来たお弁当を、西京華津世のお弁当の隣に、恐る恐る広げた。
波瑠のお弁当は、素朴な、家庭料理ばかりを詰めたありふれたお弁当だった。
しかし、波瑠には、味に絶対的な自信があった。
だって!
あの秘密の道具を使ったんだから!
どんな、豪華な料理にも負けるはずがない!
新条が、目の前に並べられたお弁当を、しげしげと見て、笑顔で言った。
「どちらも美味しそうだ」
「さあ! 早く食べてよ!」
西京華津世が、急かした。
「まあ、ゆっくり味わわせてくれよ」
新条は、のんびり言った。
この新条という男は、大きな体に似合って、おおらかで、のんびりした性格のようだ。
波瑠は、そんな新条に、はらはらした。
しかし、波瑠は思った。
どんな人にも、美味しいと思わせることが、出来るはずだ!
あの秘密の道具を使ったのだから!
新条が、二人のお弁当を見比べて、言った。
「お? 両方ともに、だし巻き玉子が入ってるな。よし、平等になるように、このだし巻き玉子の味で勝負だ」
最初のコメントを投稿しよう!