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新条は、そう言うと、箸を手に取って、西京華津世のお弁当に箸を伸ばした。
「まずは、華津世のからな」
あれ?
なんで、名前で呼ぶんだろ?
波瑠は、ちょっと不思議に思ったが、気分は、ドキドキしてそれどころじゃなかった。
新条が、西京華津世のだし巻き玉子を箸でつまんだ。
そのだし巻き玉子は、ツヤツヤとした完璧な美しい形をしていた。
それを、新条は、パクリと食べた。
「う~ん。さすが、おじさん、直伝のだし巻き玉子、舌味な味だ。綺麗な上に、完璧な美味しさだ」
ん?
おじさん?
「さて、次は、、」
新条は、波瑠のお弁当に箸を伸ばした。
ああ!
お願い!
波瑠のだし巻き玉子は、綺麗に作られてはいたが、素人の主婦のおかずに過ぎなかった。
西京華津世のだし巻き玉子とは、比べ物にならない、、。
新条は、波瑠のだし巻き玉子をしげしげと見た。
「うん。これは、これで、微妙な崩れ具合が、旨そうだ」
そう言って、口に入れた。
そして、ゆっくりと咀嚼した。
すると、新条の目が見開かれた。
「んん?! う、旨い! このだしの旨さ、初めての美味しさだ!」
や、やったーー!
波瑠は、泣きそうだった。
「華津世、悪いが、この勝負、渋谷課長の奥さんの勝ちだな」
勝ったのだ!
この憎っくき、小娘に!
西京華津世は、顔を歪めて、言った。
「そんなはずはないわ! 剣にぃの舌がおかしいのよ!」
西京華津世は、そう叫ぶと、手掴みで、波瑠のお弁当のだし巻き玉子を取って、口に入れた。
そして、味わった後、ニヤリと嗤って言った。
「これは、反則よ!」
「え?」
新条が、ポカンとしていた。
「これは、手作りとは言えないわ! だしにめんつゆを使ってる。それも、希少価値の高い新井醸造所がほんの少ししか作っていない、特別なめんつゆよ!」
バ、バレてしまった!
波瑠の料理は、全て、波瑠の田舎にある新井醸造所という小さな工場が、自分の家だけで使うために作っている、特別なめんつゆを使ったものなのだ。
それを、内緒で取り寄せて使ってきた。
料理上手なのは、みんな、このめんつゆのお陰なのだ。
波瑠の本当の実力ではない、、。
波瑠は、反則をして、勝てた、、。
しかし、それは、負けを意味する。
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