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「ねえイモち、聞こえてる? さっきからずっと黙ってるけど……」
るなちの不安げな呼びかけに、「うん。聞こえてるよ」と答えながら額をおさえる。破裂寸前の頭がひどく痛い。薬箱に鎮痛剤があったと思うけど、いつ買ったものかまったく思い出せない。
薬に賞味期限みたいなものってあったっけ? わからない。いまのあたしにはいろいろわからなくて、いろいろ腹が立って、いろいろ吐き出したくてたまらない。
家族旅行で行ったシンガポールで見たマーライオンは、思っていたよりずっと小さかったし、水の勢いも「こんなもんか」だった。期待値が高過ぎだのかもだけど、まあまあがっかりした。
あんなもんじゃない。あたしのは、あんなもんじゃない。
あんなもんじゃない勢いで、吐き出したくてたまらない。
それから一時間ほど、るなちは呪詛のような怨み言を延々延々繰り返し、あたしは額や胃袋をおさえながらうんうんうんうん頷いて、電話は終わった。耳が熱い。スマホが熱いのかあたしが熱いのか、よくわからなかった。
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