しろいとろとろ

1/1
前へ
/16ページ
次へ

しろいとろとろ

白い白いとろとろを指ですくいあげると、それはゆっくりとまとわりついて、どろりと落ちる。 ぺちゃ ちいさく音を立てて落ちると、また白い白いとろとろの中に戻っていった。 「おまえ、それ好きね。」 山田はすぐ横で僕を眺めている。 「こういう手触りは他にないから。」 僕はまたとろとろを指先ですくって、ぺちゃ、と落とした。 「なあ、鈴木、それ俺もやりたい。」 「いいけど、僕の邪魔はしないでね。」 「なんだよ、それ。」 僕は山田の指にとろとろをかけた。 「うぅ、なにこれ。なんか、すげ、きもちいい・・・」 「山田くんさ、顔がキモイよ。」 「鈴木、そういうこと言っちゃいけないんだよ。キモイとか。」 「え、じゃあ、なんだろ。顔が、エロいよ。」 「鈴木、それもダメだぞ。」 山田はいつも僕に絡んでくるけど、何がしたいのかさっぱりわかんない。 でもすごく、なんていうか、なんか、イイ。 「山田くん、これさ、手、入れてみな。すごいから。」 「ん?手?」 山田は思い切りとろとろに手を突っ込んだ。 「あ、強くしちゃダメだってば!」 ぎゅっと固まった白い白い場所に山田の指は抵抗される。 「わ、なに?硬てぇ。」 「ね、なんでそんなことも知らないで理科部にいるの?」 山田、面白い。 んふふ・・・なんだかニヤけてしまう。 僕はこれが、すんごく、すき。 ゆっくり触るとトロトロで、急ぐと、ぐッ、て硬くなる。 ダイラタンシー(英: dilatancy)またはせん断増粘性(英: shear thickening)は、ある種の混合物が示す、遅いせん断刺激には液体のように振る舞い、より速いせん断刺激に対してはあたかも固体のような抵抗力を発揮する性質である。 (Wikipediaより) 「いいじゃん、べつに。」 山田はとろとろのダイラタンシー流体にゆっくり手を入れると、手首まで埋まり、早く動いたりゆっくり動いたりを繰り返して遊びながら僕を見る。 「なあ、鈴木ぃ。おまえもこれ入れてみ、めっちゃ気持ちいいよ。」 「しってるよ。やったことあるもん。」 「いいから、入れてみなって。前とは違うかもしれねーじゃん。」 んなわけあるか。 それに手を全部入れるなんて、気持ちよくて結構ヤバいんだけどな。 「ぅ、はぁ」 「・・・鈴木、顔、キモイよ。」 「山田くん、キモイとか言っちゃいけないんだよ。」 「え、じゃあ、めっちゃエロいよ。顔。」 「それもダメだって自分が言ったくせに。」 「んふ」 向かい合ってダイラタンシーに手を突っ込んでいる僕たちは、なんだか、すごくばかげていて、はずかしい。 冷たいとろとろの向こうから、あたたかい生き物が迫ってきた。 山田はゆっくり僕の指をさわった。 あ。 手を抜こうとして、ぎゅっ、と、かたまったそれに捕まる。 「鈴木ぃ、そんなこともわかんないで理科部にいるのかぁ?ばかだなぁ、おまえはぁ。」 「僕の邪魔、しないでよ。」 「やだね。」 放課後の理科室は僕たち以外はだれもいない。 理科部は今年で廃部になる。 「三年なったら、おまえどうする?」 「帰宅部。家で、理科部する。」 山田の指が僕の手にとろとろとずっと絡みついている。 「山田くん、顔、かわいいよ。」 「しってる。」 「片栗粉、買わないとね。」 「だな。」 end
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加