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「本当に、これで良かったのか?」
教室の中で仲良く話す美香と南雲を、わたしは自席からぼーっと眺めていた。
雅がそんなわたしの前の席に座った。
「そこ、雅の席じゃないでしょ」
「休み時間なんだから、構わないでしょ」
遠まわしに、こっちに来るな、絡んでくるな、と言ったのだが無視された。雅のことだから、わたしの言いたいことは伝わっている。
「……作戦は、うまくいったみたいね」
「まあ、そうだな」
わたしと雅は二人をくっつけるための作戦を考えていた。エイプリルフールの南雲の嘘は、雅が仕向けたものだ。最も、その作戦を考えたのはわたしではあるけれど。
元々、わたしと雅は、美香と南雲が相思相愛なことを知っていた。というより、知らなかったのは本人たちだけだろう。クラスでは公然の秘密となっているような有様だった。
だから、二人をくっつけるための作戦を考えた。
最初は南雲に告白させようとしたが、上手くいかなかった。南雲がフラれることを恐れ過ぎたせいだ。
ヘタレめ、と罵りたいところだが、それはやめておく。自分のことを棚に上げなければならない。
このため、作戦を変更し、美香に告白させることを考えた。美香は普段は気弱だ。けれど、意志が強いのは親友のわたしがよく知っていた。だから、覚悟さえ決めさせてしまえば良かった。
そして、作戦は目論見通りに成功した。
雅はわたしをじっと見つめた。
「……本当に、これで良かったのか?」
雅の言葉を聞いて、わたしは自席を立った。教室でするような話ではない。
わたしは人気の少ない、階段の踊り場で立ち止まった。雅が後ろをついてきているのはわかっていた。
「さっき、雅はこれで良かったのか、って聞いたよね」
「ああ、聞いた」
「答えは、イエスよ」
「……どうしてだ?」
わたしは雅の方に振り返る。もう、涙は止まったから。
「好きな人には、幸せになって欲しい。ただそれだけ」
階段を降り、雅の横を通り過ぎる。
本当なら、わたしの手で美香を幸せにしたい。けれど、わたしがいくら美香のことを好きだとしても、そんなことは美香には関係がない。
わたしのことを好きになってくれるのは、たしかに理想だ。そして、それで美香が幸せになってくれるのが、一番良いに決まっている。
だけど、何より大切なのは、好きな人が幸せになってくれることだ。笑顔でいてくれることだ。
それが、わたしの望みだから。
わたしは、廊下の窓から見下ろす。風が吹き、わたしの髪が大きくなびいた。
照れ笑いを浮かべる美香の姿があった。
「美香のこと、幸せにしろよ、南雲」
窓ガラスを、グーで軽く殴った手は、思ったよりも痛かった。
~fin~
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