思い出の花

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思い出の花

「いつ見ても素敵ね……」 庭園の隅にひっそりと咲き誇る花壇の花。 優しい風に揺れる小さな白の花が揺れる。 私はいつも悲しいことがある時、一人になりたい時いつも生前亡くなったお母様が大切にしていた花壇の花を眺めに来ていた。 お母様は花が好きで貴族でありながらも自ら花の手入れをしていた。 中庭にはお母様の為にお父様が建てた庭園があるのだが、お母様は美しい薔薇ではなく、道端に咲いている花や小さな花が好きだと言っていた。 まるで私に似ているからと。 お母様が亡くなってからは義母と義妹が占領しているが、私はお母様が大切にしていたこの花壇が昔から好きだった。 幼い頃は父に内緒でお母様に教わりながら花を一緒に植え、育てていた。 花壇に咲く花は白のホワイト·フラワー。 土の中で根強く、雑草のように逞しく育つとされている花。 私の好きな花だ。 「綺麗に咲いてくれてありがとう」 私はホワイト·フラワーの花弁にそっと指で触れた。 風が吹き抜け、靡く髪を私は手で押さえた。 懐かしく、幸せな気持ちで満ちていた瞬間。 ぐしゃあ。 目の前で大切な花が踏み潰された。 「お姉様、みすぼらしい花を植えないで下さるかしら?我が屋敷に相応しくありませんわ」 「この花は私が大切に育てていたものなのですよ!どうして、こんな酷いことができるの!」 なぜシリカがこんなところにいるのだろうか…。彼女はセリム様と一緒にお茶をしていたはずでは。 シリカは私を嘲笑うようにクスッと笑う。 「だって、汚らしいですもの。こんな雑草みたいな花がお好きなんて、さすがはお姉様。ご自分とそっくりの花をお好きなんて」 「あなたには中庭の庭園があるでしょう。この花壇には手を出さないで!」 私は強い口調でシリカを牽制した。 いつも私は義母や義妹の望む行動を取ってきた 逆らわず、静かにやり過ごす。 その方が殴られずにすむから。 だけど。 だけど、これだけは譲れなかった。 大切な思い出を彼女に汚されたくはなかった。 シリカは顔を醜く歪ませて、私の頬を平手で殴った。 「ふざけたことを言わないで下さるかしら。 この屋敷のものは全て私のものなのよ。お姉様のものなんて一つもない。あなたはお父様から捨てられたのです。それと、今後一切私の愛しい婚約者の視界に入らないで頂けますか?彼は私の将来を誓った夫なのですよ」 さらにシリカは私の顔を見てクスッと笑うように言った。 「お姉様。まさかまだセリム様に未練がおありなことはありませんよね?たとえお姉様が未練があったとしても彼は私のことを愛しているのです。お姉様が彼に愛されることは一生ありません。お可哀想なお姉様。家族にも、初恋の人にも愛されないなんて惨めですわね」 私はシリカの言うとおり、セリム様のことが好きだった。 誰にでも分け隔てない優しさと柔らかい物腰で 一緒にいると自然と安心出来る。 そんな人だったからだ。 だけど、私の気持ちに気づいたシリカはセリム様に可愛く甘えて好意を示し、彼の心を射止めた。 そのとき私はセリム様の本当の顔に気づいてしまった。 彼は人の意見に流されやすい偽善者。 私からの彼の想いは消えてしまった。 セリム様のことなんてどうでもいいとさえ思っていた。 「私はあなたの恋人を奪うつもりなんてありません……」 「ふん。どうだか。でも、この花壇は侍女に言って処分致しますわ。二度とこんなところに汚らしい花を植えないで下さいね」 「そんな……」 シリカは吐き捨てるように告げるとその場を後にした。 私は彼女に踏み潰されたホワイト·フラワーをを見て胸が押しつぶされそうな程の悲しみを感じながら、 「ごめんね……」 謝るしかできなかった。 数日後。 ビクトリアス家に衝撃が走った。 父が多額の借金をしてしまい、男爵家であるビクトリアス家は没落してしまった。
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