信頼を勝ち取る為には胃袋から。

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信頼を勝ち取る為には胃袋から。

暫くして。 廊下の突き当たりに行くと厨房があった。 中を除くと料理長、料理人達が昼食の仕込みをしていた。 香しい香りが鼻腔をくすぐる。 (美味しそうな香り……) 若い金髪の爽やかな青年である料理人が野菜の切れ端をゴミ箱に捨てていた。 「あぁ~~。もったいない」 「奥様!?」 思わず呟いてしまった私の声に気づいた料理人達は後ろを振り向き、私の姿を見てぎょっとした顔をした。 「なぜ奥様がこのような場所に……」 「いえ、暇だったので屋敷の中を見て回っていました。それよりそちらの方要らないのでした頂くことは出来ますか?」 私は先程青年の料理人が捨てようとした野菜の切れ端を指さして訊ねる。 「それは構いませんが……。こちらはゴミですよ?」 「はい。問題ありません。あとキッチンを少しだけ貸して頂けますでしょうか?もちろん邪魔にならない端の所で大丈夫ですので」 「どうぞお好きにお使い下さい。あともし宜しければ材料も使って下さって結構ですので…」 「有難うございます」 強面で大柄の料理長にお礼を述べて私はキッチン台の端を使う。 まな板の上に人参の切れ端を乗せて人参をみじん切りにして、その次にキャベツの芯を細かくみじん切りにする。 「奥様手際が良いのですね。もしかして料理の経験がおありなのですか?」 「ええ。ここに来るまでそれなりにやっていたから」 料理長は私の言葉に困惑した表情を浮かべる。 それもそうだ。 普通の令嬢は料理なんてしない。 運ばれてきた料理を口にするだけ。 私の方が珍しいのだ。 だけど私は生きていく為には働くしかなかった。 私は2種類の優しいを細かくしたところで、小麦粉、牛乳、バターを加えたクッキー生地を作り、生地を伸ばしてクッキーの形をしてトレイにオーブンで並べて焼く。 甘い香りが漂う。 暫くして焼きあがったクッキーを見て私は満足気に微笑んだ。 「うん。良い感じに焼けた」 その後。 私はリビングのダイニングテーブルの上に キャロットクッキー、キャベツクッキーを皿に盛って、紅茶を淹れて、用意した角砂糖を用意した。 テーブル席には先程の強面の料理長のシトラスさん、若い料理人のジン、侍女のアリスが席に着いていた。 皆はそれぞれ困惑した表情を浮かべていた。 「あの…奥様……。これは一体……?」 「もし良かったら召し上がって下さい。これからお世話になるのでお近づかの印に。とは言っても、先程私が作った品で申し訳ないのですが……」 シトラスさんはガタッと席を立ち、戸惑った表情で私に言った。 「いえ、そうではなく。私たちは使用人。奥様はアルジャーノ家の女主人になるお方なのですよ。私たちに気を使って頂かなくても結構です。私たちは貴方様の命令で動くのです」 「確かに私はニコラ様と結婚して、この屋敷の女主人となりました。ですが、ここでは私は新参者です。右も左も分からないただの小娘です」 私はシトラスさんの顔を穏やかな表情で見つめた。 「私が気づかないうちに貴女方たちに失礼なことをしてしまうかもしれない。女主人らしからぬ行動をしてしまうかもしれません。その時は私のことを遠慮なく叱ってください。私は貴方方を咎めません」 私は一度言葉を切り、続けた。 「私は貴女たちの仲間になりたい。これは私からの賄賂です。受け取ってください」 「………しかし」 言葉に詰まるシトラスさんの横からアリスがクスッと笑った。 「シトラスさんの負けですよ。賄賂受け取っておきましょう」 「アネモネ……」 アリスは私の傍に来ると、私の手を優しく握った。 「奥様。私は貴女が奥様で嬉しいです。これからどうぞ宜しくお願い致します。貴方様のお力になれるように誠心誠意仕えさせて頂きます」 「俺もです。本当は正直、旦那様の奥方になる貴族のご令嬢は我儘な奴かもって、心配していましたが貴女なら安心だ。どうみたってお人好しみたいだからさ」 「おいジン、言葉を慎め。全く……」 シトラスさんはジンに注意した後、ため息をつき、私の方に向き直った。 「分かりましたよ。だけど、これから簡単に使用人に頭を下げないで下さいよ。借りにもあんたはここの女主人だ。外の者に見られたら示しがつかんだろうからさ」 「わかりました。以後気をつけます」 やっぱりここの人達は暖かい。 ビクトリアス家とは大違いだ。 「さぁ、冷めないうちに召し上がってください」 「有難うございます。いただきまーす!」 ジンがキャロットクッキーを一つ取り、頬張った。 そして目を見開いた。 「うまっ!これってさっき俺が捨てようとした野菜の切れ端ですよね!?」 砕けた口調で私に訊ねるジン。 彼の中で私への警戒心は薄れた気がした。 「本当だな。確かに人参の皮には栄養分が含まれているが、料理にはあまり使わない。それをあえて刻んでクッキーの中に練り込んで、人参の本来の美味さを引き立たせたわけか……」 「はい。細かく切ってしまいさえすれば調理法としてはいくらでも方法はあるかと思いましたので」 「なるほどですね。そんなことまで奥様は知っているのですね」 「いえ、たまたまですよ」 私を褒めるアネモネに私は謙遜した。 そして私は皆の顔を見渡して一言告げた。 「あの、この屋敷って畑とかあります?」 「「「は?」」」
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