変な女。

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変な女。

数週間後。 ニコラは徹夜で執務室で仕事をしていた。 ここ数日間。 急ぎの案件があった為、仕事漬けの毎日だった。 妻と顔を合わせるのは食事ぐらいなもので、寝室も別々。 彼女とは契約結婚。 契約上の妻とはいえ、彼女と身体を重ねることはなく、干渉するつもりもない。 ニコラはアルジャーノ家の次男。 今は自然豊かなリクルスの領地を治めている領主だ。 幼い頃から整った顔立ちのせいで女性たちが寄って来てうんざりしていた。 最初はビクトリアス家の娘を妻に所望した理由は明確で単純。 女避けと没落寸前の令嬢ならば契約結婚を断らないだろうと見越してのことだった。 もし仮に迫られた場合、屋敷の離れにある小さな家に置いやろうと考えていた。 しかし数週間立ってもセシリアはニコラに文句一つ言わないどころか、楽しそうに過ごしていた。 貴族としての贅沢を禁じれば他の令嬢ならば我慢できずに出て行くはず。 しかし、彼女はニコラに新しいドレスを強請ることはなかった。 それどころか、キッチンに出入りして使用人達の手伝いをしているようだった。 何故そのような真似を……? 彼女のことが分からない。 一体何を考えているんだ。 そんなことを考えていると白髪で年配の執事がノックも忘れず慌てて執務室に入って来た。 「失礼します!」 「騒々しいな。何があったんだアバン」 アバンと呼ばれた年配執事は慌てて来たのか切らした息を整えたあと、ニコラに告げた。 「大変です!奥様が……」 屋敷の裏庭にニコラとアバンの二人が慌てて向かうとセシリアの姿があった。 セシリアの手には瑞々しいトマト、キュウリ、黄、赤のパプリカが籠の中一杯に入っていた。 「あっ、ニコラ様。おはようございます。いい朝ですね」 「お前は何をやっているんだ!」 「何って、野菜の収穫ですけど……」 セシリアはニコラの言っている意味が分からず首を傾げた。 「あっ、そうそう。ニコラ様がお庭を自由にしても宜しいと言われましたので、お庭を少しだけ借りて畑を作らせて頂きました」 ニコラは内心セシリアの言葉に驚く。 農家のように自ら楽しそうに家庭菜園をやる令嬢なんて聞いたこともない。 自分が知る限り女性というものはドレス、宝石が好きなはずではないのか? それを通り越して野菜栽培? 何を考えているんだ。 彼女は…… 「きみは変わっているな……」 「そうでしょうか。植物のお世話は好きなので実家にいた頃は良くやっていましたし、私は至って普通だと思いますが……」 セシリアはある事を思い出し、一瞬だけ悲しそうに目を伏せた。 ニコラに気づかれぬように平然と顔を上げた。 「では、私は野菜をシトラスさんに届けないと行けませんのでここで失礼します」 そう言ってセシリアは野菜籠を抱えてその場を後にする。 去って行くセシリアの後ろ姿を見ながらニコラの隣にいたアバンは楽しそうにニコラに言う。 「坊ちゃん…いえ、旦那様は随分と面白い方を奥様に選ばれたのですね」 坊ちゃんと言われてニコラはアバンを軽く睨む。 彼はニコラが幼い頃から世話係をしていた。 この屋敷に来てからは執事長を任せているが、 彼はたまにニコラのことをそう呼んでしまう時がある。 「坊ちゃんは止めろ。それに変わり者というのは認めてやるが、他の女よりマシだ」 自分は誰も愛する気はない。 それはセシリアも例外では無い。 ニコラはそう感じていた。
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